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冥王来訪
第二部 1978年
歪んだ冷戦構造
シュタージの資金源 その5
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 シュトラハヴィッツは、総裁に東ドイツの政財界の資金の流れについて(ただ)した。
「貴様が知っている範囲で良い。
今の政府と産業界の関係……金の流れを聞きたいんだ」
そして、彼が語るには、
「政府と産業界か。
それなら簡単だ。1960年代のころよりその関係は弱くなっている」
マサキは、おうむ返しに訊く。
「弱くなっている?」
「だが、シュタージは、別さ」
マサキはうなずいて見せながら、更に問いただした。
「別?」
すると、総裁は、はばかりなく、
「ああ、シュタージは独自のパイプラインを持っている。
あの警官殺しのミルケが、別建てで金儲けをする独自の仕組みを作っておいたの」
と、断言した。
そして、彼が語るには、
「例えば、急成長を見せる電子産業、計算機、高速大容量の通信機器、数えたらきりがない。
こういったものには、西の優れた工業機械が必要だ。
でも普通に輸入したら、馬鹿でかい関税がかかる」
「それが、どういうわけで?」
と、マサキが聞くと、総裁はなおつぶさに語っていう。
「そこで、ボン(西ドイツ)の連中と悪だくみをして、貿易ではなく国内の通商という扱いにし、商社を作った。
 ゲーネックスというやつだよ。
西に文通友達がいれば、東の品物を高値で売りさばき、裏ルートで物を持ち込める。
ベルリンで売っているトラバントは35000マルクだが……。
ゲーネックス経由で、ボンに持ち込むと49000マルクへ、()ける。
こいつはおいしい商売さ。
その為に、いくらでもシュタージに海外貿易の利益が入り込む」

総裁の話に、驚かぬ者はなかったが、やがて彼の説明に依って、ようやく仔細は解けた。
「それじゃあ、シュタージはその金を……」
「ああ……、表に出ない金のかき集めに関しては天才的だよ。
俺も相当むしられた。
そうやって、シュタージの権力だけが強大になっていく」


「面白い。
確かに、この金はシュタージにとって強みだが、逆に弱みになる」
気の弱い総裁は、それを聞くや、思わず嘆息していさめた。
「木原さん、それは止めた方がいい。
外人であるあなたが、そこまで踏み込んだら命を懸けることになる」
眉をひそめた総裁を気にする風もなく、マサキは断言した。
「俺は、元より命がけよ」







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