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邪教、引き継ぎます
第一章
3.ハーゴンの神殿
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 ――おかしい。
 肌を刺すような寒さの雪原を走りながら、フォルはそう思った。

 大神殿からほとんど出たことがなかったフォルも、ロンダルキアについての知識はある程度持っている。人間にとっては極寒の地であっても、寒さに適性を持つ巨人族ギガンテスや魔族シルバーデビルなどにとっては快適な庭。一人くらいは目撃してもおかしくはないはずだった。

 誰かいれば、大神殿がどうなっているのか聞くつもりだった。
 なのに誰も見かけない。

 嫌な予感をまといながら、フォルは急いだ。



 予感は、当たることになった。

「……」

 絶句。
 巨大な神殿が、なくなっていた。
 代わりにあるのは、がれき。
 山のような積もりかたではない。小さなものから背を優に超えるような大きなものまで、さまざまながれきが、除雪されてむき出しになっていた地面の上に広く散らばっていた。

 そこから吹いてくる冷たい風には、石の匂いしか乗っていない。
 それらしき大型の鳥はもう飛んでいないが、ところどころに見えている白骨は、すでに生態系による死肉の回収まで終了していることを示していた。

 (うつ)ろな足取りで、フォルはがれきの迷路に入っていく。

 やがて、転がっているのを発見した。
 激しく折れた、赤い宝玉が埋め込まれた杖を。
 大神官ハーゴンが使用していたものだった。
 駆け寄り、あらためてそれが間違いないものだとわかると、すぐに眼は熱くなった。

 さらに探していくと、臙脂(えんじ)色のローブを見つけた。
 毎日見続けていたものだった。
 近づき、そのローブから悪魔神官ハゼリオと思われる白骨がはみ出していることを確認すると、フォルの膝は崩れた。

 彼の使っていた杖は、ほぼ無傷な状態で横に転がっていた。
 一礼してそれを拾い上げ、すでに冷え切っていた手にさらに冷たい感覚が伝わってくると、すでに熱を持っていた眼が限界に達した。
 仮面を外し、膝をついたまま冷たい青色の空を見上げた。

「わかった? キミたち、負けたの。滅ぼされたんだよ」

 突然背後から飛んできた言葉に驚いたフォルだったが、その声には聞き覚えがあった。
 慌ててローブの裾で目を拭いた。仮面を着け直してから立ち上がり、振り返る。

 背後に立っていたのは、銀髪の白い少女・ミグア。
 どうしてここに? と驚いたが、口からは勝手に別の質問が出ていた。

「あの……私たちは、こんな仕打ちを受けなければいけなかったのでしょうか」
「まあ、そうだね、きっと。邪教だから」
「……」
「邪教というのを認められないみたいだね。それとも、認めたくない、のかな」

 教団の活動そのものに疑義を抱いたことは一度たりともなかった。
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