第一章
2.ロンダルキアの祠
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すぐに着替えて支度を整えたフォルは、建物の外に出ると、見送りに出てきた少女にふたたびお辞儀をした。
「本当にありがとうございました」
少女の背後には、小さな石造りの建物。
ここはロトの子孫たちが大神官ハーゴン討伐に向かう前に、最後に立ち寄った祠――少女からそう説明を受けた。
ロンダルキアの地にポツンと存在する小さな建物と、小さな少女。
違和感があるはずのその光景も、彼女がまとう不思議な雰囲気が妙な説得力を持たせていた。
「神殿、もうないのに。邪教も、もうないのに。それでも戻るんだ」
「申し訳ありません。命の恩人であるあなたを信用しないわけではありませんが」
今からでも戻る以外の選択肢はなかった。
あまり大神殿から出たことがないフォルでも、今の季節は雪の日が少なく、雪原は巨人族ギガンテスなどに踏み固められて歩きやすくなっているところが多いことを知っている。
大神殿の方角は聞いた。天候もよい。ならば走れる。
まだ大神殿が健在であれば、もしくは万一健在でないとしてもハーゴンやハゼリオが存命であるならば、これからどうすればよいのか指示を仰ぐべき。そう考えた。
「そんなに戻りたいなら、もうとめないけど。その仮面、着けないほうがいいよ。残党狩りに遭うかもしれないし、まあまあきれいな顔が見えなくなるし」
フォルは白い仮面を右手で触った。
「お言葉ですが、野外での活動や公式の場ではこれを着けるように言われています」
「……。なんか心配になってきた。現地まで送ろうか」
「いえ、そこまで迷惑はかけられません。一人で行きます」
「あっそ。じゃあ、無事でいられるように、お守りあげる。これ着けているといいことある」
「え? あ、すみません。ありがとうございます」
少女が背伸びして首にかけてきたのは、小さな青い宝玉の付いた簡素なネックレスだった。
フォルはその宝玉に手をやった。ただ光を反射しているような感じではなく、ゆらめくような、不思議な輝きだった。
少しのあいだ見入っていたが、空から鳥の声が聞こえると、ハッと我に返った。
またまた少女に頭を下げる。
「きちんと名乗れていなくて大変失礼しました。私はフォルと言います。十四歳です。大神殿で働かせてもらっていました」
「わたしはミグア。歳は一緒だね。十四歳。今はこのロンダルキアの祠に一人で住んでる」
「この地に一人って……。あなたは何者なのですか。人間、ですよね?」
少女はマフラーを少しだけ下にずらした。小ぶりで形のよい口が完全に露出した。
「キミとは違って、本当のことを少しだけ知っている人間」
フォルは謎の少女のもとを辞した。
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