第二部 1978年
歪んだ冷戦構造
その名はトーネード その2
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緊張したキルケは、さりげなさを装って、コーラのグラスに唇を付ける。
「米国の生産能力の枯渇を見越して、多目的戦闘機の開発を急いでいるの」
マサキは意外そうに。
「米国は、そんなに武器の在庫がないのか」
ぐっと体を近づけて聞いてくるマサキに、否が応でも緊張が高まる。
夜景ですら、まともにキルケの目に入ってこなかった。
「産業のすべてを軍事優先にしているソ連とは違って、今のアメリカは無理だわ。
民需の都合もあるから戦時体制に入らない限り、増産は出来ないはずよ」
「本当か」
マサキの怪しみは、むりもない。
それは既に30年以上の時を経た、大東亜戦争の苦い敗北の記憶が染みついたためであった。
1940年時点において、GDPは、日本2017億ドル、米国9308億ドル。
4倍以上国力差を見せつけた米国の産業。
どうしてもその時の印象ばかりが、頭を離れなかったのは事実だ。
彼は、アメリカの生産能力を過剰に恐れていた。
「もっとも米国市民のほとんどは海外派兵を望んでいないでしょう……
それに今年の中間選挙。
今の野党、共和党が勝てば、BETAがいなくなったことを理由に大規模な欧州から撤兵を表明するでしょうから。
民主党が議会を維持しても、現状のままとは思えないし……」
マサキは窓ごしの夜空をにらんで、いかにも無念そうな面を澄ました。
けれど何もことばには現わさなかった。そしてやがて。
「つまり、米国には期待していないと」
「早い話、そう言う事ね。
東のおバカさんたちはそうじゃないかもしれないけど、私たちはそう思ってるの」
この期にしろ、ドイツには本心、米国を捨て去る気持ちなどは毛頭ないのである。
ただしかし、欧州にとっては当面、まことに困る存在であった。
自分たちの要望を、受け入れてもらえばよいのだった。
「話は変わるけど……」
「どうした」
キルケの呼びかけに、マサキは、また顔を澄ました。
「サミットが終わったら、私と役所に行ってくれる」
「役所?」
「貴方には戸籍謄本とか、個人証明の書類を用意してほしいの……」
マサキの頭に浮かんだのは、戦術機関連の特許申請に関してであった。
改良型のサンダーボルトUか、あるいは光線級の対レーザーペンキの特許か。
どちらにしても大使館経由で関連書類を整えるしかあるまい。
「いいだろう。早い方がいいからな」
キルケは口にこそ出さないが、
「もう、しめたもの」と、思ったような態であった。
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