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冥王来訪
第二部 1978年
歪んだ冷戦構造
その名はトーネード その2
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マサキ、そんな小娘一人で満足すると思ったか。
俺はお前たちが思っているよりは、ずっと欲深い悪党なのだ。
俺が仕尽くす悪行は、こんなことでは終るまい。楽しみに待って居れ」
彼はそう言って、まもなくその場から退()がって行った。




 さてマサキたちといえば。
夜半も過ぎたころ、ミュンヘン空港にあるマクドナルドに来ていた。
ドイツの一般的なレストランや飲食店は、20時で閉まってしまうためである。
(2006年以降、ドイツの閉店法は改正され、24時間営業は全面的に解禁された)
この法律の元となったのは、ワイマール共和国時代の労働者保護の精神である。
しかし、20世紀も半ばを過ぎた1970年代後半に在っては、やや時代遅れなものとなりつつあった。 
 この悪名高い『閉店法』の都合上、営業している店舗などは非常に限られたものであった。
例外として、空港、ガソリンスタンド、鉄道駅は深夜営業が許可されていた。
それ故に、マサキはわざわざミュンヘン空港のホテルからでてマクドナルドにまで来ていたのだ。

 さっきから、二人は「ここなら人目もない」と、密語に時も忘れていた。
「迷惑じゃなかったか」
「迷惑だなんって、そんな……」
少しはにかむ様に言いながら、飲みかけのコーラに口を付けるキルケの装いは華やかだった。
紺青(こんじょう)のダブルジャケットに、共布(ともぬの)のタイトスカート姿は、決して派手ではなく、キルケの女らしさを上品に引き立てて、優美でさえあった。
「こういう場所は、あまり好きではないのか……」
 漆黒の髪をした東洋人に情熱的な眼で見つめられ、キルケは感激で胸が詰まり、それ以上言葉が出てこなかった。
 ここで、何と答えればよいのだろうか……
 適切な答えが出てくるほど、キルケは男の扱いに慣れていなかった。
むしろ、恐ろしいほどに男というものを知らなかったのだ。
「い、いえ、そんなことはないですけど」
そういう彼女を見ながら、マサキはニュルンバーガーを頬張った。
 ニュルンバーガーとはドイツ国内で限定販売されているソーセージ入りのハンバーガーである
太いニュルンベルクソーセージが3本、フライドオニオンがバンズに挟まっていて、マスタードで味付けされている。
 ソーセージはいくらかハーブがきいていたが、値段の割には思ったより小さかった。
食べ応えを求めていた、マサキには不服だった。
 こんなものを食うより、てりやきバーガーの方がうまいのではないか。
ふと食事をしながら、マサキは一人、望郷の念に苛まれていた。

 沈黙したまま、窓の外の夜景を見つめる二人。
紫煙を燻らせながら、そっとキルケの方を覗き、いつもの調子で尋ねる。
「BETAもいなくなった今、なぜそんなに新兵器開発を急ぐのだ」

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