第二部 1978年
歪んだ冷戦構造
その名はトーネード その2
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前だ。
「ほう。イタリアは自動車設計技師を引っ張り出すほど困った居たのか。
イタリア車は、フィアット、フェラーリなど官能をくすぐるような、デザインが多いのは事実だ。
形容しがたいほど素晴らしいが、勝気なじゃじゃ馬娘と同じで、少々維持に金がかかりすぎる。
もう少し壊れなくて、安い自動車が欲しいものよ」
イタリア車が壊れやすい、これはある一面事実であり、事実でなかった。
四方を海に囲まれ、豊かな森林と山河を抱える日本列島は、常に水資源の恩恵にあずかっていた。
他方、そのことによって、年間を通して多量の雨が降り、湿潤な環境下では、欧州の乾燥した環境に対応した製品にとっては不向きだった。
工業製品にとどまらず、衣類や革製品などもあっという間に湿度に侵され、無残に風化してしまう過酷な環境であったからだ。
約1000年前の平安朝のころなどは、今日よりも気温が3度ほど高く、渤海より献上された黒貂の毛皮などは管理された状態であっても、2年も経ずして腐り果ててしまったという記録があるほどである。
(渤海とは、今日の中国東北部周辺において、7世紀から10世紀に存在した騎馬民族王朝のことである)
故に、どんなに素晴らしい自動車であっても、日本の環境下ではゴムパッキンなど用をなしえなかった。
その為、運転可能に維持するのがやっとであった。
マサキは、二度の大戦でイタリアが途中で連合国に降伏したことを非難した。
「途中で嫌になって、ほっぽり出す。今度は、そのような真似はするまいな。
二度あることは三度あると、よく聞くものでな……。
俺らの邪魔にならないよう、最高のインテリアとして頑張ってくれや」
ラテン系のイタリア人はドイツ人や北欧系の人々と比して、明朗快活で親しみやすい面があるのは事実である。
しかし、ドイツ人のような生真面目さもなく、バカンスを優先し、精密機械でも雑な仕上げが多かった。
そのことを知っていたマサキは、彼らを揶揄った。
ペンキの色がところどころ違うボディー、抜け落ちるブレーキパッド、割れる樹脂製のコンポーネント。
整備性を無視した乱雑な配線、雨漏りのする屋根……
彼には、イタリア車に関して、いい思い出がなかったのも大きかった。
そうした内に、ジアコーザー老が、口を開いた。
「博士がもう少しお若ければ……孫娘のモニカの相手にでもと思ったのですが」
本気かと、マサキは疑った。
だが、曖昧模糊なジアコーザ老の顔はまた笑っていた。
「ほう。いくつの娘だ」
「今年の7月に、4つになったばかりにございます。
15年ほどお待ちいただければの話ですが」
「ハハハ」
マサキは、初めて笑い出して。
「見損うな。この木原
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