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仮面ライダーAP
陰謀編 穢れた正義と堕ちた英雄 最終話
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、彼女の正義がどれほど血で穢れようとも。その歩みに、躊躇いは無いのだろう――。

 ◆

 ――同時刻、日本のとある廃工場。薄暗い闇に包まれたその屋内には、数十人の男女が集まっていた。年齢、性別、体格、服装、人種。何もかもがバラバラであり、外見から彼らの共通項を見付けるのは非常に難しい。
 だが、ただ一つ明確に似通っている部分がある。眼だ。暗澹とした憎しみの炎。負の感情が凝縮され、熟成された殺意の業火。その灯火を宿した双眸が、彼らが共有している唯一の要素となっていた。

「……女狐め」

 そんな彼らを背に、真凛・S・スチュワートと通話していた大男――ジークフリート・マルコシアン大佐は、先ほどまで通話に使っていたスマホを木っ端微塵に握り潰していた。髭を蓄えた精悍な貌は、静かな殺意に満ち溢れている。45年の人生に裏打ちされた熟年の闘志が、その眼に宿されていた。
 灰色の野戦服を纏う筋骨逞しい肉体。猛獣を想起させる暗い茶髪に、右眼を覆う黒い眼帯。かつては北欧某国における「正義」の象徴(シンボル)として名を馳せ、歴史にその名を刻んだ伝説の英傑は、闇に堕ちた左眼で天井を仰いでいた。

 改造人間に深い憎しみを抱き、その殲滅を目指して活動している過激派組織。彼らはその中枢メンバーであり、ジークフリートはこの組織における「軍事顧問」を務めているのだ。組織を率いるリーダーである青年は、スマホを破壊したジークフリートの様子から全てを察したのか、彼の背後から静かに声を掛ける。

「……真凛・S・スチュワートをこちらに引き込むことは出来なかったようですね。元特務捜査官である彼女の能力は、我々も評価していたのですが……残念です」
「あの女には元より、大した期待などしておらん。……それに元捜査官と言えども、今の奴は対策室から追放された一匹狼に過ぎん。仮に敵に回ったところで、我々を止めることなど出来はしない」

 リーダーの言葉に不遜に鼻を鳴らし、背を向けたまま言葉を紡ぐジークフリート。威厳に満ちたその背中は、歴戦の元軍人に相応しい鬼気迫る覇気を宿していた。そんな彼の背を一瞥したリーダーは踵を返し、背を向け合いながら再び口を開く。

「彼女も言っていたようですが……ギルエード山地の件、あなたが動いても良かったのですよ」
()の国は……彼の国の政府は私を捨てたのだ、もはや未練などありはしない。……スチュワートに情報を流したのは、私なりの最後の手向け(・・・)だ」
「……なるほど。祖国は捨てても、部下達の無念は忘れない。国ではなく、人の為に起つ。あなたはそういう男でしたね」
「国というのは、土地を指すのではない。そこに根付く文明、文化、人、心。その全てが揃うことで、初めて国という概念が生まれる。私にとっての祖国はもう、あの地ではない
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