アインクラッド 前編
揺れ出した心
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ぐにその考えを頭から追い出す。マサキと言えど、このレベルのモンスター相手に油断した場合、万が一ということがある。これまでよりも強いと言われれば、なおさらだ。
そんなマサキをよそに、ローテーションであるトウマが一歩前に出て、敵の攻撃を受け止めようと構えを取る。素早い攻撃に備え、後は手を振るだけの状態だ。
しかし、オオカミの攻撃は予想よりも数段速かった。数メートル先にいたはずのオオカミが一瞬でトウマに肉薄し、鋭く光る爪を突き立てようとする。トウマはこの攻撃を受けるのは無理だと判断して回避を試みるが、それには敵が近付き過ぎていた。左足の爪がトウマの右肩を切り裂き、HPを二割ほど減少させる。トウマはそのことに動揺してしまい、後ろに跳んで体勢の立て直しを図るまでに僅かな時間を作ってしまう。その隙にオオカミが再度トウマに飛びかかり、さらにHPを三割ほど削り取った。
「ぐっ……!」
トウマが苦しそうに顔を歪ませ、動きが鈍る。オオカミの攻撃によって行動遅延が発生してしまったためだ。しかし、オオカミはさらに反転、三度トウマを襲う。トウマはこれを回避できず、既にイエローゾーンに入っていたHPがレッドゾーンに差し掛かる。トウマも何とか逃げようと懸命に体を動かすが、ディレイが解けていないために体が言うことを聞かない。ならばと腰のポーチからポーションを取り出そうとするが、恐怖から指が震え、あろうことかビンを掴み損ねてしまう。
「待ってロ! 今行ク!!」
アルゴが間に割り込んで攻撃を逸らそうと試みるが、逆にアルゴが吹き飛ばされ、HPバーを黄色く染める。オオカミはアルゴなど意に介さず、瀕死のトウマに飛びかかる。そして、トウマの顔が死を意識して凍りついたとき――、
トウマの世界が急にブレた。視界が九十度回転し、オオカミの腹がすぐ左を通り抜ける。マサキがトウマに飛びつき、難を逃れたのだ。そのままマサキは腰からポーションを取り出し、まだ呆気に取られているトウマの口元に押し当てる。トウマは我に返ったように回復ポーションを口に含むが、その顔は明らかに動揺していた。
ここでも、マサキは訝った。単にトウマがオオカミの速さに戸惑っただけと考えるには、一撃目を受けた後のトウマの動揺が大きすぎると感じたのだ。その証拠に、トウマの顔に浮かんでいたのは単なる動揺ではなく、まるで正解に違いないと思い込んでいた回答がバツをもらってしまったような、目の前で起こった現象が信じられないと言うようなものだった。そしてそれはアルゴも同じで、本当ならマサキがしたようにまずトウマを安全圏へ退避させるのが最善策のはずなのに、なぜか彼女はオオカミへ向かっていった。まるで、何かを確かめるかのように。
「……どうすル? このままじゃあジリ貧だゾ。あいつの体力がなくなる
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