アインクラッド 前編
揺れ出した心
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囲んでいる五体のオオカミは、トウマではなくマサキを目標にしているらしく、特別な動きを見せることはなかった。
数秒後、マサキの真後ろに位置していた一体が、突如マサキに飛びかかった。それを見て、周りのオオカミも数瞬の時間差を付けつつ走り出す。が、マサキは後ろを振り返ろうともしない。
もし最初の一撃を喰らってしまえば、絶妙な時間差で繰り出される連携攻撃をかわすことが出来なくなり、結果、全ての攻撃がマサキのHPを無情にも奪っていくことになる。そして、マサキの今のHPは、連続攻撃を全て受けてしまった場合、0になるかならないかギリギリのラインだった。
トウマは迷った。ここで自分が出て行けば、全て回避、とはいかなくとも、マサキを助けるくらいは出来るだろう。だがその場合、マサキは間違いなく自分の秘密に気付いてしまう。そして、トウマはそれが怖かった。デスゲームのプレッシャーでパニックになり、出来るはずのないログアウトを出来ると信じ込んで自殺しようとしていた自分を助けてくれた彼から、どんな冷ややかな目で見られることになるかを想像しただけで、足が動かなかった。そしてその結果、最初に飛びかかった一体の爪がマサキの右わき腹を引き裂こうとして――
空を切った。マサキが攻撃を受ける寸前、半歩だけ左に跳んだのだ。そして驚くことに、マサキは 次々と飛びかかって来るオオカミの攻撃を全て、見向きもせずに回避して見せた。何度か爪や牙の先端が掠ることはあったが、それでもマサキの総HPは一割程度しか減っておらず、オオカミの数から考えれば少なすぎると言っていいだろう。
実はマサキは、先ほど周囲を見回した際にオオカミの方向、距離を頭にインプットし、その距離と今までに見た攻撃のスピードをもとに移動開始から攻撃までの時間を算出、その情報を全て、脳内で自分を中心とした座標にプロットしていた。そして、ダッシュの音の方向から、どの敵が攻撃を仕掛けてきたのかを判断し、最低限の動きで次々と襲い来る攻撃を全てかわしきったのだ。
全ての敵の位置を正確に読み取る洞察力と、それを記憶する記憶力、瞬時に位置情報から攻撃までの時間を割り出す計算力、それらの情報から脳内で座標を作り上げる想像力、音の方向を正確に聞き分ける判断力、そして、そこから最適の行動を導き出す情報処理能力の全てにおいて、常人を遥かに凌駕しているマサキだからこそ取ることが出来た戦法だった。
「すげぇ……」
トウマは眼前でマサキが見せた光景に目を見開いたが、すぐに気を引き締め、自分の役目を遂行するべく走り出した。
最後に攻撃したがために未だ態勢が整っていない一体に詰め寄り、片手直剣用斜め《スラント》を発動。右上から左下に重さの乗った剣を振り下ろし、HPを六割ほど削り取り、オオカミが盛大に吹っ飛んだ。
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