七十三 正義と悪
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鋭く視線を投げた。
「忠告ではなく予告か」
「俺は『暁』を本来の姿に戻したいだけだ。だからペイン以外の『暁』がお邪魔しても見逃したほうが身の為だよ」
「ペインだけでも手がかかるのに他の暁の人員も動員するつもりか」
綱手の言葉に、相手は無言を返した。
肯定も否定もしない白フードの反応に焦れて、彼女は水面を強かに蹴り上げた。
綱手の剛力により打ち砕かれた水が波となって、白フードを襲う。
激しい水飛沫が霧雨の如く、相手に降り落ちた。
「おまえは…おまえは何者なんだ…っ!!」
水飛沫の霧雨。相手の影が雨の向こうで陽炎のように揺らめく。
おぼろげに見えるその影に向かって、綱手は同じ質問を今一度問うた。
霧の向こうで初めて、白フードの眼差しが驚いたように、綱手に注がれる。
水飛沫に阻まれてよく見えないが、その瞳の蒼が鮮やかに輝いて、こんな時なのに、綱手は一瞬、息を呑んだ。
美しい、と思った。
澄んだ水の壁を透かし見えるように、白フードの陰から垣間見える双眸がやわらかく笑んだ。
そんな気がした。
「ただの忍びさ」
霧雨が消える。
己が打ち上げた水柱から降り注いでいた水飛沫が完全に堕ち切ったその時には、白フードの姿はどこにも無かった。
園林に囲まれた池の畔。
ひそやかに隠れ家のような佇まいを見せる、水上の四阿。
美しい朱色の橋が架かる路亭は同じく朱色の柱に四方を取り囲まれている。
綺麗に整えられた美しい庭園に相応しいあずまやは見事な景観を誇っていた。
鳥の囀りと虫の音と蛙の歌声があちらこちらで響いている。
眼に痛いくらい真っ青な空の下に映える朱色の路亭。
そんな、いつもの環境音が綱手を我に返らせた。
眼を瞬かせて周囲に視線を走らせても見渡しても、寸前まで対話していた相手の姿など何処にも無い。
水面下を注意深く見たところで、そこに誰かが潜んでいる様子も水上に佇んでいた気配も微塵も無く、ましてや波紋ひとつ、見当たらなかった。
今のが白昼夢だった可能性も無きにしも非ずだったが、それでも幻や空想という一語で終わらせるにはあまりにも鮮明過ぎる。
耳に強く残る正体不明の存在の忠告らしき言葉は予感めいていて、綱手の胸にいくつもの波紋を残していった。
「ミズキ…!あんな事件を起こしたとは言え優秀な忍びだったおまえが…!」
親友だと思っていた。仲間だと思っていた。憧れさえ抱いていた。
そんなミズキが波風ナルを九尾の狐だと罵った
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