七十三 正義と悪
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綱手は鋭く詰問した。
「……誰だい?」
池の水面に降り立つ人影は、妙に白々と蒼天の下で輝いている。
フードの陰に隠れて顔は全くわからない。気配も隙も窺えない。
けれども、里に住まう人間ではないはずなのに、どこか見知った雰囲気を覚えた。
「――何者だ?」
火影である自分に微塵も悟られず、ここまで接近してきたのだ。
木ノ葉の里に現在そこまでの忍びはいないと、自惚れではなく事実を知る綱手は当然の如く警戒した。
「何者だ」
綱手の再三の詰問に、相手はフードの陰で微かに微笑んだ。
その微笑みが嘲笑でも冷笑でもなく、今や落ち着いている池の水面と同じく穏やかなモノである事実に、綱手は片眉を軽く上げる。
五代目火影を狙った刺客や暗殺者ならば、こうも堂々と姿を見せまい。
なのにこの落ち着いた佇まいは何か。どうしてこうも穏やかに己と相対している。
まるで親しい知人へ話しかけてくるかのような口振りに、五代目火影のほうが動揺する。
改めて何者か問うがやはり無言を貫く相手に、綱手は質問を変えた。
「私に何用だ」
「忠告をしに来ただけですよ、五代目火影殿」
そこでようやく、陽炎のように佇む人影が応えた。
何の感情も窺えない淡々とした物言いは事務的なようでいて、それでいてどこか暖かみのある声音でもあった。
しかしながら、己を呼ぶなら火影だけで事足りるだろうに、何故か五代目をやけに強調した物言いだった。
「──これから『暁』がこの里にお邪魔させてもらう」
今まさに、自来也が死んだ原因の名を出され、綱手の双眸が大きく見開かれる。
ぞわり、と鳥肌が立った。
「…ッ、貴様…!?『暁』か…!?」
綱手の鋭い声に、相手は微笑みを返しただけだった。
それを無言の肯定だと認識して、綱手は殺気と共に、路亭の柱を蹴って水上の人影へ飛び掛かる。
水が五代目火影の渾身の一撃で、パックリ割れた。
凄まじい水柱が立ち上る。
激しい水飛沫を顔に浴びた綱手の背後で、物静かな声が何事もなかったかのように続いた。
「だからと言って『暁』の者全てを敵だと決めつけないでほしい」
「…、世迷い言を…!」
振り返る。己が湧きあげた水柱の飛沫の向こう側を綱手は睨む。
いつの間にか彼女が今し方まで腰掛けていた路亭の屋根の上で、人影は白いフードを棚引かせていた。
綱手に対し、特に何を言うでもなく、依然としてただ微笑んでいるばかりの穏やかな佇まい。
殺気にも鋭い眼光にも物怖じせず、己の様子を仄かに微笑んで見ているだけの相手の態度が気に障る。
だが同時に敵だというのに何故かその人物をそこまで憎めない自分に、綱手
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