第二部 1978年
歪んだ冷戦構造
その名はトーネード その1
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から滑走路に居並ぶ戦術機を睥睨する。
前の戦争ではドイツは700万人の尊い人命が失われた。
もしBETAを食い止めなかったら、東独はおろか、西独も歴史の渦に消え去っていたであろう。
「確かに人的資源には限りがあるからな……」
意味ありげに、タバコをふかした後、
「生かすのも、殺してしまうのも……」
マサキの言葉に室中、氷の様にしんとなってしまう。
マサキを本社に連れてきたキルケは、すっかり狼狽えていた。
メッサーシュミットの社長に対して、いきなりこれである。
重役たちの腹の中は煮えくり返っているに違いない。
それが気が気でなく、不安と緊張で体を強張らせて、とても彼とのデートではなくなっていた。
「フフフ……」
声高に笑うマサキを見て、反射的にキルケは腰を引いた。
「ちと、不躾なことを申してしまったな……」
そうは言われても、気にせずにはいられない。
「こいつは、失敬した」
逃げ出せるものなら、逃げ出したい。
怖気づきながらも、マサキの方に視線を向ける。
本能と理性の、恐怖と任務の間の板挟みにあって、彼女は身動きできずにいた。
「でも日本とて、下手をすれば同じ道をたどったであろうよ……」
「そんなことはないでしょう」
マサキは、会長のお世辞を耳にしたが、驚いたふうもない。
「わが国の航空機技術、既に失われた20年のノウハウは想像以上に大きいものでした」
刻々、変ってゆき、また悪くばかりなってゆくドイツの形勢図。
男の言葉から、マサキには波と聞え、眼にも見えるここちがした。
「それでも数年前からですが、新しく戦術機開発の部門を開設しました」
憫笑を禁じ得なかった。
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