女王と野獣
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すでに計画の第二段階開始時間のはずだったが、二度目の空襲はまだ起きない。さすがにヤザンの頬にも、隠せぬ焦燥の汗が一筋流れた。
そして最悪なことに、人質になっているのが女王だなどと知らぬ一台の警備エレカが通りの角から一気に走り寄ってきて、仲間が手こずっているという認識だけで一人が発砲した瞬間、場は動いてしまった。
――ダダダッ、ダーンッ
小銃から数発の弾丸が吐き出され、ヤザンの表情が少々歪むと共に「ぐっ!?」という苦悶が漏れ聞こえた。
「バカ!よせ、女王陛下がいるんだぞ!!」
「え!?へ、陛下が!?う、撃ち方やめーー!」
応援の警備達は慌てて射撃を止めたが、既に引き金は引かれた。
だが弾丸は、マリアにもシャクティにも、ウッソ達にも当たることはなかったのは、彼らには幸いだったろう。
ヤザンが、瞬間的に彼女らに覆いかぶさって、マリアも子供達も押しつぶす格好で這いつくばらせたからだった。
だがヤザンは巨漢でもなんでもない。
カバー出来ぬ範囲は、ウッソやオデロやトマーシュが、年下連中達を庇っていたのは見事な男の仕事をしたと言えた。
「あ、貴方は…私を盾にするのではなかったのですか!?なぜ…私を庇うのです」
驚いたのはマリアだ。
あれだけ野蛮に脅しをかけ続けて、自分にセクシャルハラスメントまで働いた無礼千万な男が、自分を守ってくれていた。
もっとも、ヤザンとしては人質というのは生きていてくれなければ意味がないから、本当の射撃があった時はこうして庇うのは予定調和に過ぎないし、いくら何でもシャクティの実母を、娘の眼の前で盾に使って死なすのは少々目覚めが悪い。それだけだった。
「…!血が…!」
組み伏せられる拍子にヤザンの背に回ったマリアの手が、べとりとした生暖かい液体で濡れて、さすがに闘争に疎いマリアでもそれが血である事はすぐに理解した。
マリアの心と肉体の奥が熱くなったのは、男が自分を庇ったからというだけではない。
最大の理由はもっとも単純で、そして浅ましい。
逞しい雄が、女の自分を押し倒した。それに尽きた。
マリアの鼓動が、まるで初めて男に抱かれた時のように高鳴ってしまう。
すぐ間近に、ハンサムとは決して言えぬが、どこまでも男らしく鋭いケダモノのようなヤザンの顔がある。
マリアは、野獣のように光る雄の眼光に吸い寄せられて、目が放せなくなっていた。
「あ、貴方の、名は―――」
思わず聞こうとしたその時に…大きな音と振動が場の全てを揺らした。
ズズズ、ズ、ズ…―――
アメリアが揺れ
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