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第二十一話 哀愛その六

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「事故で」
「そしてですね」
「娘は心を壊し」
「それからですね」
「ずっとこの部屋にこうしていてです」
「この表情で、ですか」
「座ったままなのです」
 こう昴流に話した。
「そうした状況が三ヶ月」
「その方がお亡くなりになってから」
「続いていて」
「僕を呼んでくれたので」
「そうなのです」
「そうですね、全てお話通りです」
 昴流は女が最初に東京に来て自分に話してくれたことを思い出しながらそのうえで女に対して応えた。
「最初にお話を聞いてわかりました」
「娘はですね」
「お心の中でその方の魂とです」
「まだこの世にいる」
「ご一緒でして」
「その中にいて」
「出て来ないのです」 
 そうした状況だというのだ。
「まさに。ですから」
「今もですか」
「この状況です」
「そうですか」
「はい、しかし」
 それでもとだ、昴流は女に話した。
「それは決してです」
「いい状況ではないですね」
「娘さんのお心は今はこの世にはありません」
 女にこのことも話した。
「この世ではない幻の世にです」
「あって」
「そこから出ようとしていません」
「心はこの世になくてはならないですね」
「この世に生きている限り」 
 まさにというのだ。
「そうです」
「それでは」
「今から娘さんを戻します」
 こちらの世界にというのだ。
「そうさせて頂きます」
「わかりました、それでは」
「今からやらせて頂きます」 
 こう言ってだ、昴流は。
 陰陽道の印を結んだ、そして。
 その場に陣も敷いてそのうえで詠唱も行っていった、少女はその中で今も恍惚の顔で座っていてだった。
 心は幻の世で既に世を去った筈の恋人を共にいた、そこで着物姿の美少年である彼に対して言っていた。
「私このまま」
「僕もだよ」
「一緒にいましょう」
「この世が終わる限り」
「二人だけで」
 お互いに寄り添い合いながら話していた、だが。
 これまで桃源郷の様であった世界がだ。
 急に暗転し少年は消え去った、そして声だけが聴こえた。
「御免、僕はもう」
「いなくなるの?」
「時が来たんだ、誰かの力だけれど」
 それでもというのだ。
「だから今の人生ではね」
「お別れなの」
「だからきみも」
 優しいが哀しい声での言葉だった。
「現世に戻って」
「そうしてなの」
「生きて。そして幸せになって欲しい」
「けれど私は貴方がいないと」
 少女は消えゆく少年に右手を出して言った。
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