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冥王来訪
第三部 1979年
曙計画の結末
部隊配属 その2
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指をかける。
「よく狙って……」
 そういって、ヴァルターはアイリスディーナの背後に回り、彼女の右手を包む。
食指で、操縦桿にある射撃スイッチをゆっくりと押した。
「確実に打ち抜く」
兄さんや、木原さん以外でも、男の人の手って、こんなに温かったんだ。
アイリスディーナが、そんな事を思ってると、ヴァルターは感慨深げに語った。
「彼等も、また国のために剣を振るう戦士なのです。
そんな彼らに必殺の一撃を、情けの一撃(クー・ド・グラス)をくらわす。敬意と惜別を込めて……」
 ヴァルターの言ったとおりにやったら、成功した。
気持ちの弾んだアイリスディーナは、右わきに立つヴァルターの横顔を見つめた。


 訓練を終えて、士官食堂に向かう途中である。
一人の将校が、アイリスディーナに声をかけた。
「同志ベルンハルト少尉!」
それは、灰色の空軍勤務服姿をした、隊付けの政治将校であった。
「ハンニバル大尉がお呼びです。執務室まで」
立ち止まるアイリスディーナを横に、ヴァルターは食堂の方に消えていった。
 戦闘団とは、ソ連式の軍制を取る東独軍の軍事編成である。
NATO基準で言えば、およそ中隊から大隊の中間に位置する規模であった。
 隊付けの政治将校に連れられて、基地の奥の方にある司令執務室にまで来ていた。
第一防空師団長室とは違い、戦闘団司令の執務室は殺風景だった。
執務机の他に、戦闘団の軍旗と応接用の簡単な机とパイプ椅子。
壁にかかるのは感状(かんじょう)ぐらいで、よくある歴代国家元首の肖像画はかかっていなかった。
「うむ」
 団長のハンニバル大尉は、今時珍しい朴訥(ぼくとつ)な人物であった。
40半ばのこの大尉は、今600名の将兵と100名の軍属を管理する仕事をしている。
「アイリスディーナ・ベルンハルト少尉であります」
彼は、既に中年に差し掛かっているのに、筋肉質で逞しい偉丈夫であった。 
「同志ベルンハルト少尉、君は射撃の成績に問題があるそうだな」 
灰色の上着の襟を開けて勤務服を着崩したハンニバル大尉は椅子から立ち上がる。
「技術不足に関しては、鋭意努力し、向上に精進するつもりであります」
「中々、真摯な心掛けだ」
 国家徽章のついた士官用ベルトこそしていなかったものの、乗馬ズボンに膝までの革長靴。
実に、東ドイツ軍の将校らしい恰好であった。
「君は士官学校で優秀な成績で卒業したのは聞いている。
だが、軍人としての覚悟が足りない。私にはそう思える」
 ハンニバル大尉の感情の突き詰めた目が、アイリスディーナの顔に向けられる。
「は!」
「軍人に許された返答は、はいか、いいえだ」
「はい」
直立不動の姿勢を取るアイリスディーナの周りを、ハンニバル大尉は歩き回りながら、
「中々飲み込
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