第三部 1979年
曙計画の結末
部隊配属 その2
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あくる日、アイリスディーナを始めとする幹部候補生たち。
彼等は、将校初級課程の訓練の最中で、戦術機の操縦訓練をしていた。
各々が、コックピットを模した椅子に座りながら、大型モニターを眺める。
その脇には配属された幹部候補生たちを補佐する古参の下士官が静かにたたずんでいた。
機材の使い方の説明を受けたアイリスディーナは、ヘッドフォン付きのゴーグルを手渡される。
ゴーグルは、網膜投射を通じて眼球越しに映像が脳に反映される装置であった。
アイリスディーナは自慢の長い髪をかき分けると、静かにゴーグルをつけた。
そこには、対人戦闘用のコンピュータグラフィックスが視界に飛び込んでくる。
右手で握る操縦桿で、迫りくるミサイルを次々と撃破していた時である。
その瞬間、一機の戦術機が面前に現れた。
右肩に赤い星に、灰色の塗装をしたMIG-21バラライカ。
突撃砲を2門構えた、ソ連赤軍機であった。
彼女は、右の食指の先にいる突撃砲の射撃ボタンに触れるのをためらってしまう。
人が乗った機体を、20ミリの突撃砲で撃ち抜くしかない。
生きて帰るためには、相手に勝つしかない。
しかし、瞳に映る躊躇いは、さらに大きくなっていた。
驚く間もなく、 敵機の構えた20ミリ砲は、アイリスのバラライカの胸部を打ち抜いた。
撃墜の瞬間、座席が震え、警報音が鳴り響く。
シミュレーション映像の演習とはいえ、あるいはだからこそ。
この鬼気迫る戦場の現実感は、中々の物であると、聞いたことがある。
呆然とするアイリスディーナに、彼女の世話役を務めるヴァルター・クリュガーが声をかけた。
先ごろまで曹長だった彼は、少尉に昇進していた。
軍功の為ではなく、地上におけるBETA戦争終戦の結果によるものだった。
それは、退官手当や恩給がなるべく多くもらえるようにするために行った措置である。
ちょうど我が国が終戦の詔勅が発せられた後、行われたポツダム進級に似たものであった。
「同志少尉、どうしました。
目標を撃って下さい」
「ええ、判ってはいるんですが。
あの戦術機を見ると、どうしても中に乗っている人間が思えて……」
灰色の髪をしたヴァルターは、190センチ越えの偉丈夫。
兄ユルゲンや昔なじみで上司のカッツェより、立派な体格だった。
化繊の中綿が入ったレインドロップ迷彩の冬季野戦服が、筋肉質な体をより強調し、様になっている。
「奴らが何を考えているか……」
「えっ!」
驚愕の声をして振り返ると、そこには、いつになく真剣な表情のヴァルターがいた。
「そんな事はわかりません」
しゃがんでぐっと顔を近づけてきた彼は、
「名誉と尊厳のある死を迎えさせてやるのです」
と言ったので、アイリスディーナは右手に握った射撃ボタンに食
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