第二部 1978年
歪んだ冷戦構造
少女の戸惑い
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た。
グレーテルは、総合技術学校(Allgemeine. polytechnischeOberschule)の10年生になったばかり。
総合技術学校とは、満6歳から16歳までの10年間の義務教育機関で、日本の小中学校にあたる。
今年はグレーテルにとって、重要な年であった。
職業学校か、高校進学かに関しての進路に対する重大な決定を決めなくてはならないからである。
職業学校とは、2年制の学校である。
卒業後、企業や公団への進路が決まっていて、東ドイツ国民の9割以上がこの道を選んだ。
一応、3年制の特別職業学校もあり、そちらは大学進学の道が開けていた。
高校は二年制で、西ドイツのギムナジウムに相当するものであった。
東ドイツでは、西ドイツと違い、社会人になってからも大学の受験資格は存在した。
社会人青年学校と呼ばれるものや、職業学校から専門学校に入れば、大学進学が可能であった。
グレーテルには、青天の霹靂であった。
自分の一生を左右するこの時期に、父の怪しげなうわさなどは……
党の反対派に関しては、つねづね聞き及んでいることも多々ある。
シュタージの心事を理解するに、全くわからないグレーテルでもなかった。
特に今度の唐突な噂については、彼女も解せぬものを抱いていた。
子供とは、残酷なものである。
父の事を思い悩むグレーテルのもとに、いつしか同級生たちが集まっていた。
「ねえ、グレーテル。こんな話、知っている……」
そういって、女生徒の一人が声をかけてきた。
「うわさで聞いたんだけど……
議長のお嬢さんが、ゼオライマーのパイロットに見初めれられて、彼と結婚するらしいのよ……」
何、世話話とグレーテルは訝しんだ顔を向ける。
「知っているわ。
少年団でも、学校も、もちきりだもの。おとぎ話のような話ね」
「そう、おとぎ話、別世界だと思っていた。
でも、その噂の人が、東ベルリンに来るとしたらどうする」
そういって、不安と恐れとともに呟く。
その言葉に、グレーテルの心は揺れた。
『どうしよう……でも父さんを助けなければ……』
今、党内や職場で不利な立場に置かれている父を救うには、その日本軍のパイロットに頼み込むしかない。
議長の娘の婚約者となれば、東ドイツの政財界に影響を持つのではないか。
窮地にある父や母を救うためには、この私が出来ることをするしかない。
子供心にそう考えた彼女は、ある決断をする。
グレーテルは、夢からさめたような面持を向けて、
「ゼオライマーのパイロットに頼めば、父はどうにかなるんでしょう。
その人に会いに行くわ」と、つぶやいた。
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