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冥王来訪
第二部 1978年
歪んだ冷戦構造
少女の戸惑い
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志イェッケルン。
議長は国のためを思って、日米との関係修復を急いでいるのだ……」
イェッケルン課長は、冷たく突き放した。
「話は、それだけですか」
彼は居住まいをただすと、議長の方に向き直って、
「失礼します」
深々と一礼をし、その場を辞した。


 イェッケルン課長がいなくなったのを見計らって、大臣が釈明をした。
「しかし有能な男なんですがね……
何度も言うようですが、社会主義に凝り固まっていなければ」
 議長は、大臣の言葉が終わらぬうちに言葉を重ねた。
机の上にある煙草盆から、愛用するフランス煙草のゴロワーズをつかみながら、
「彼をここに呼んだのは、貴様にも責任がある」
大臣は、男の言葉の真意を測りかねている様子だった。
「えっ」
男は、両切りタバコを口にくわえ、
「シュタージの第8局の捜査官……」
静かに、ガスライターで火をつけた。
「会ったそうだね……」
途端に、大臣は驚愕の色を示す。
「えぇ……あ、あの……」

「あまり小細工はするな。
今回は見逃してやる。つぎはないぞ」




イェッケルン課長は、厠に入るなり、今までの憤懣をぶちまけた。
「所詮は、アメリカの飼い犬ってことか。
力のない男だから、ゼオライマーのパイロットに、愛娘を妾に差し出すことしかできない宿命か。
腹を立てても、仕方ないか……」

 今の議長は官界では嫌われていた。
ソ連の次は、米国と西ドイツに、最終的な責任を持って貰う。
 議長は、「西と東が手を取り合って」と良き事の様にいっている。
だが、結局豊かな西側におんぶに抱っこ。
 つまり、東ドイツは自力で何も出来ない。
東ドイツ人の自尊心に対して、物凄く不誠実ではないか。
 そんな声も少なくなかった。 
米ソの思惑によって、ドイツ国家が西と東が分断されて三十有余年の時間を経た。
人生の大半を東ドイツで過ごしてきたという人も、1600万人と、決して少なくはなかった。
 どんな批判すべき体制であろうと、東ドイツという国でを一つの生涯を過ごしきたのは事実である。
そのつらい経験も、また人間を構成する一つの要素であることに変わりはなかった。


「このクソジジイどもが」
イェッケルンは怒りのあまり、トイレの鏡を鉄拳で割り砕いた。 



 まもなく、妙な噂が立った。
それも官衙の中からである。政治局会議の直後だった。
「イェッケルン課長が乱心した」
「いや躁鬱病だとか」
「何、そうでない。議長の御前にてあるまじき狂語を吐き、ために訓戒を受けたそうな」
「そうらしい。自分の聞いたところもそれに近い」
と、いったような臆測まじりの風聞(ふうぶん)だった。


 その噂は、彼の娘、グレーテル・イェッケルンの耳にまで届いてい
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