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冥王来訪
第二部 1978年
歪んだ冷戦構造
少女の戸惑い
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ものは、国家体制の維持に比べれば、大したことではない。
物不足や社会不安によって、国内の労働力が海外に流出することの方が危機なのだよ」
と、相手の若い真額(まびたい)をにらみつけ、
「不服か」
と、語音をあげて云った。
イェッケルンは、その眼をすぐそらしてしまった。

 興奮するアーベルとは、別に周囲の反応は冷ややかだった。
そして声のない笑いを、イェッケルンの背へ向けながら、みな彼を見すえていた。
 遠巻きに見ていたシュトラハヴィッツ少将は、脇で俯いているハイム少将に耳打ちする。
「あのバカは、何だ」
妙なことがあるものと、シュトラハヴィッツは、変に思った。
「ほう? ……では、その顔で、想像がつかんわけではあるまい」
ハイムは、そう一言いっては、眼のすみからシュトラハヴィッツの顔色を見、
「あれはイェッケルンとかいう建設官僚で、前議長の小姓と言われた例のお気に入り組だよ」
また一言いっては、相手の反応を打診していた。
「前議長の小姓か……、そいつは面白そうだな」
 打てばひびくというふうに、シュトラハヴィッツも図にのって、その血気と鬱憤(うっぷん)を、不平らしいことばの内にちらちら洩らした。

「一気に切り崩しにかかるか」
ハイムは、聞き流してゆくうちに、その顔にもただならぬ色が動いた。
「ガチガチの社会主義者だ。その辺の政治将校より融通が利かんぞ」
「ふん、ちょっと利用してみるか」


 会議の後、イェッケルン課長は控室に戻った。
彼の勤める建設省に帰る準備をしている折、声を掛けられた。
「大臣」
「同志イェッケルン、ちょっといいかな……」
 
 建設大臣の案内で、議長執務室に呼び出された彼は、議長の面前に通される。
重苦しい空気を壊すかのように、議長は笑みを浮かべた。
「同志イェッケルン……今の君の気持ちは、痛いほどわかる。
俺も若いころは、何度となくそういう気持ちを味わったものだ」
 イェッケルン課長は、微動だにしない。
すると議長の表情が、にわかに険をおび始めた。
「だが、今回の件は俺に貸しを作ったと言う事で納得してくれぬか」

「同志イェッケルン、今の国際情勢は、実に微妙な状態だ。
ソ連という大国の凋落、それによるEC各国の動き、そして日米の経済交渉……
わが国にとって、今まで以上に、西側との外交通商が最重要課題になる」
 再び、議長はよそ行きの笑みを浮かべる。
脇で聞いている建設大臣の顔色は、決して優れているものではなかった。
「誤解しないでくれよ。
これは君の力を不安に思っているわけではない」

「だが、いま求められているのは、社会主義にとらわれない自由な発想なのだよ」
 大臣は、イェッケルン課長の機嫌を伺うような言葉を吐く。
「分かってくれ、同
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