第二部 1978年
歪んだ冷戦構造
少女の戸惑い
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の事態は、国家の危機そのものであった。
当時の東ドイツ政府は、ソ連の援助の縮小に対応すべく、西側に解決策を求めた。
それは、5年物の建設国債の販売である。
英仏などの諸国は足踏みしたが、西ドイツは積極的に国債を買い求めた。
また、米国のモルガン・スタンレー証券、チェース・マンハッタン銀行など、名だたる民間投資銀行も名乗りを上げた。
このことによって、東ドイツの政情不安は一時的に先送りされることとなった。
今、議長の胸を騒がせているのは、その時に発行した対外債務の返還であった。
特に、1975年に発行した5年物の債券の返済期限が、だんだんと近づいてきたためである
早朝からの閣議は、紛糾していた。
それはブルガリアが近いうちに債務不履行に落ちいるとの報告を、秘密裏に受けたためである。
「諸君、ブルガリアの債権放棄が事実だとすれば……」
議長がそう言いかけたとき、アーベル・ブレーメは重ねて、
「ルーマニアやユーゴスラビアも同様の姿勢を取れば、一気に旧経済開発機構内の信用不安に陥る。
そうなってからでは、西側に比して産業の立ち遅れた、わが国の経済発展は頭打ちになる」
と、常にない様子でいった。
むしろそれは、議長のほうでこそ、待っていたことのごとく、
「だが、うまい具合にそれは避けられそうになった」
「どういう事でございますか、同志議長」
政治局員からの問いかけに、ちょっと議長は、居ずまいを直した。
「近々、木原博士が、日本の商社マンとともに来られると連絡があった。
私としては、この機会を存分に利用したいと考えている」
議長は、やや眉をあかるくして、答える。
「同志諸君らは、この意見はどう思うかね」
ふいにいま、ひとりの若手官僚が、挙手したと思うと、席から立ち上がった。
東ドイツでは人気のない、ソ連製の袖の長い茶色の背広姿をした小男が、
「建設省都市局都市計画課長のイェッケルンです」
閣僚たちは、一せいに目を向ける。
「同志議長、そのことに関してですが……」
と、イェッケルンは、いよいよ早口となって、
「今の政府の見解は、国際共産主義運動への分派活動ではありませんか。
理由を、お聞かせ願えませんか」
と、声も高らかに答えた。
その場に衝撃が走った。
みな沈黙におちたが、訊きかえす者はない。
「…………」
議長は、うんもすんも答えなかった。
興ざめた顔して、イェッケルンのを見まもっていた。
議長のわきに座っていたアーベルは、うろたえ顔に、
「見損なったよ。同志イェッケルン」
と、ついに喰ってかかった。
「君は、もう少し冷静に現実を受け止めらるとは、思っていたが……
国際共産主義運動?そんな
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