妖獣の爪痕 その1
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あってより見え辛いがグッタリと動かないのは分かった。
「起きてくださいよ!ヤザンさん!」
ウッソはなおも必死に叫ぶ。
ウッソにとってヤザンはただの上官とか教官とか、人生の先達者とかそういう範疇の男ではない。
母ミゲルをしてニュータイプの天啓を得て生んだ子と言わしめる、まさに生まれながらのスペシャルであるウッソは、物心ついた時には既に利き腕の矯正、ナイフ投げや受け身の訓練、自然の中でのサバイバル技術、頭脳面ではミドルスクールに相当する年齢の前から連立方程式まで解き、初歩的なミノフスキー物理学まで履修し…そういうスパルタ教育を施されてきた少年だ。
天賦の才とハイクオリティな教育が合わさったウッソは、自然の中で育った事もあって純朴で真っ直ぐな子に育ったが、心の何処かでは他所の一般的大人に対して、「あぁこの人もきっと理解し合えないし、学ぶ所は無い人だ」と、そういうある種の諦めのような見下しの心が、僅かに在った。
それは決して大人を取るに足らないくだらぬ存在と卑下するものではなかったが、一線を引いて深く交わらず、また頼るような事もなかった。
シャクティと二人で自立して生活していたウッソは、既に両親ですらも ――心は甘えたがっていたが―― 必要としていなかった。
そんな短い人生の中で、突然現れたヤザン・ゲーブルという男は、カテジナにとってもそうであったが、ウッソにとってもまた今までに無いタイプの男だ。
真実の姿がテロリストであろうと、表面的には紳士的で、人当たりが良く、物腰柔らかな、…そういうハンゲルグが父親であり身近な男の大人だったから、ヤザンのような野性的で、そして男臭い人物は新鮮だった。
苛烈で、強権的で、物怖じせず言い淀まず、物事の解決には腕力が一番だとでも思っていそうな、ウッソが好む冒険小説にでも出てきそうなむくつけき戦士のような男。
カテジナへの淡い恋心とは違う、初めて「僕もこうなりたい」と思わせた憧れ≠ニいう感情を抱かせる大人の男。
「まだまだこの人にはここが敵わない…」と、そう思わせてくれる男がヤザン・ゲーブルという人だった。
「ヤザンさん、あなたはこれぐらいで死なないでしょう!?
死ぬはずありませんよ、だから、起きてくださいよヤザンさん!!」
震える指で外部ロックの解除ボタンを押す。何度も押す。
大きく歪んだコアファイターのコクピットフレームが、不快な金切り音を出してギリギリと駆動しても、なかなかキャノピーは開かない。
その間にも折角鎮火した炎はまたぶり返して内部からモビルスーツを焼いていく。
「ヤザンさん!」
ウッソがキャノピーフレームを蹴りつければ、その拍子にキャノピーフレー
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