獣爪は月で研がれる
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セント・ジョセフに隣接する小クレーター内の地下。
そこへ秘密のパイプラインを通ってやってきたヤザン一行を出迎えたのは、長い金髪の癖っ毛を持つ中年手前と思しき女性だった。
少々やつれ気味ながら美しいと形容するに足る女性で、もっと若ければさぞ男達が言い寄ってきただろう事は想像に難くない。
ヤザン一行の中から、その女性へ向かって弾けるように駆け出した者がいた。
オリファーはぎょっとして一瞬止めようかと思ったが、それをヤザンが素早く制する。
飛び出し、駆け出したのはウッソだった。
「母さん!」
出迎えた女性は、駆けてくる少年を驚愕の表情で受け止めた。
「ウ、ウッソ!?ウッソなの?なんであなたがここに…!」
女性の名はミューラ・ミゲル。
コードネーム、テクネチウムこと秘密工場ホラズムの責任者であり、この地で造られるリガ・ミリティア製MSの産みの親にして、ウッソの母その人であった。
「母さん、母さん…!本当に、母さんだった!」
ウッソの瞳から涙が数筋流れ落ちる。
泣きじゃくりまでしなかったのは、ウッソの精神がまた少しタフになっているという事だ。
母離れの一歩目は既に始まりかけているが、それでもまだ母恋しいのには違いない。
ウッソは、鼻いっぱいにミューラの匂いを吸い込んだ。
何年ぶりかに嗅いだ母の匂いだ。
何年経っても、月にいても変わらない母の香りだった。
母の胸に顔をうずめるウッソを見守りつつ、ヤザンは突然の息子の登場に戸惑うミューラの名を呼んでから、少し神妙な顔で言った。
「ミューラ。工場の事は俺もオリファーもある程度知っている。
ここの事はいい。今は…その坊やの面倒を見てやるんだな」
「隊長…あなたは――」
ウッソと自分が親子なのを知っていたのか、と聞きかけて、しかしその前にヤザンが答える。
「途中から薄々と勘付いただけだ。
貴様らが親子と確信したのはついこの前さ。
まさか、カサレリアで拾ったガキがお前の子とは思わなかったぜ。
なにせ、あの小屋にはコイツの家族写真一つ無かったからな」
念のいった事だ、とヤザンはエヴィン夫妻の証拠隠滅の手際を皮肉気に褒め、そうされたミューラは後ろめたそうにやや視線を落とすと、少しばかり声のトーンを落としてヤザンの皮肉に抗う。
「…この子に何も残さなかったわけじゃない。
こんな時代でも強く生きられるようにしてあげたかっただけ」
「別に貴様の教育方針に文句をつけるわけじゃない。
俺のガキでもないし、それにウッソはいつ
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