宇宙の暗がりで企む獣
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。
だからこその漂流刑なのだ。分かるかな?」
タシロは血のように紅いワインを片手で弄んで、そして唇を潤し微笑んだ。
その笑みは穏やかであったが欠片も優しさを感じない。
メッチェの優しい笑みをもう一度見たいとファラは思う。
「……分かり、ました…」
油断すれば目から涙が零れそうになってファラはまた俯く。
もうアイスの蕩けるような甘さも舌は感じてくれない。
ただその冷たさだけがはっきりとファラには感じられた。
――
―
儀仗兵が無機質な廊下に整列している。
30名程が礼服に身を包み実弾が抜かれた旧世代の飾り豊かなライフルを抱えていた。
宇宙服に身を包んだファラ・グリフォンが笑う膝を叱咤して歩を進めるが、
一歩一歩を意識しなければ千鳥足になってしまいそうであった。
2、3年ばかり副官を勤め上げ続けたゲトル・デプレ少佐が
複雑な表情で彼女の横を共に歩く。
宇宙の虚空に独り投げ出される漂流刑は、
宇宙世紀史上でも上位に位置するむごい刑といえた。
自分の吐息しか聞こえぬ静寂。
押し潰されそうな程に圧迫してくる無限の黒い暗黒景色。
徐々に衰弱していく自分。
飢餓。
窒息。
助けなど来ない。
広過ぎる宇宙で己は身一つで漂う。
運が良ければ、飢餓と窒息で死ぬ前に…
正気を失う前にデブリに直撃して瞬時に圧死できるかもしれない。
そういう想定外の事故だけが、
真綿で首を絞められるような忍び寄る死の恐怖から解き放ってくれる。
ファラの呼吸は荒い。
そんなファラの背へ、ゲトルは人道的な規定≠ノ基づいて
3日分の酸素ボンベと食料を背に括り付けてやる。
腰のパック内にはいざという時のナイフもある。
「…法により、腰には3日分の食料と酸素を付けました」
「……すまない」
ファラの声は泣きそうに震えていた。
「………」
ゲトルは何を言えばいいのかも分からないが、
何か声を掛けたかった。
だが、結局彼は元上司に何も言えやしなかった。
ファラが独り言のように呟いた。
「…ギロチンの家系が…ギロチンに掛けられてはお笑いだものな…。
ふ、ふふ……ゲトル…わ、私は………私は、こんなにも悪い上司だったろうか」
「それは…」
はっきり言って良い上司だったとゲトルは思う。
だが、彼自身の出世と、そして女に顎でこき使われるという事が男のプラ
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