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ヤザン・リガミリティア
宇宙に帰ってきた獣
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ーベットが不機嫌な声で隊長へ訴えるが、

ヤザンはやはり愉快そうである。

 

「クククッ…ハッハッハッハッ…!あぁ、笑い事だ。こいつは可笑しい。

まさか、気概を見せろと言ってからこれ程早くパイロット志願とは俺も予想出来なかった」

 

カテジナ・ルースはいつもヤザンの予想の上を行く。

しかも唯の上ではなく、絶妙にズレて低空で上を飛んでいくのだから面白い。

ヤザンがのしのしと歩き、睨み合う二人の女の間に入った。

 

「ヘレン!」

 

「…はい」

 

ヤザンに呼ばれ、何とか怒りを飲み込んでヘレンは返事をするが、

全く不機嫌が隠せていない返事であるのは明らかだ。

だがそんなヘレンを見てもヤザンは薄く笑い続けていた。

 

「お前の怒りは当然だ。カテジナはパイロットを甘く見てやがる」

 

「はい!」

 

そこでようやくヘレンは暴れるのを止めてヤザンへと敬礼し向き直った。

しかし、

 

「だが、跳ねっ返りの新兵はどいつもこいつもこんな感じだ。

貴様らもかつてはこうだった」

 

ヤザンは単純にヘレンの味方をしてくれているわけでもなさそうだ。

 

「えっ、い、いえ…私はこんな馬鹿な女じゃありませんでした!男のために戦うなんて―」

 

「それの何がおかしい?

戦いなんてのは、所詮は食うため生きるため…惚れた女のため男のためにやるもんだ。

戦いそのものを楽しむのも、結局は全部生き物の本能さ」

 

「それは……」

 

ヘレンは抗しようとしたが、しかし訓練生時代に散々ヤザンにその点は仕込まれている。

曰く、戦いに主義主張も善悪も無い。

曰く、戦場は兵士の華舞台。

化かし合い撃ち合い斬り合い…それらのテクニックを競い合う競技会場が戦場なのだ。

 

そういうヤザンの価値観にシュラク隊も大分影響されているから、

ヤザンが言うことを真っ向から否定出来ないヘレンであった。

 

「切っ掛けなんてそう大層なものじゃなくても構わん。

肝心なのはその後だ」

 

悪人面にしか見えないいつもの笑みを止め、

真顔となってカテジナを振り向いて彼女の名を叫べば

カテジナは不貞腐れるのと喜んでいるのが綯い交ぜの顔をして低い声で応えた。

 

「カテジナ・ルース!」

 

「…なに?」

 

「切っ掛けは対抗心だろうがへそ曲がりだろうが何でも良い。

だが兵士となって戦うというならば俺のルールに従って貰うぞ。

…特に、俺の元でパイロットになろうというのならばなァ」

 

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