獣の安息 その1
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ても無事ではありますまい」
「…」
聡明で雄弁、女傑であるファラが俯いて何も言い返せない。
サイド2はアメリア政庁の女王の耳にまで失態が届いているのだとしたらもはや絶望的だ。
「タシロ・ヴァゴ大佐よりの命令は先程お伝えした通り。
ラゲーン基地の指揮権は一時的にゲトル・デプレ副司令に移譲されます。
ファラ中佐は急ぎ宇宙そらへ上がり、本国へお戻り下さい」
ファラの表情が相変わらず冴えない。
「…しかし、ラゲーン基地には打ち上げ施設が揃っていない。
今から建設を開始しても、本国に戻れるのは2ヶ月後と思って貰いたい」
ピピニーデンの片眉がやや嫌味に釣り上がって言う。
「悠長なことを仰らないで頂きたい。
大佐はすぐに戻れと仰っておいでだ。中佐はすぐに戻れるよう努力を尽くすべきでしょう」
「勿論、私も昼夜問わず突貫工事の陣頭指揮をとって建設を急がせる。
だが、ラゲーンの貯蔵物資も決して潤沢ではないし、まずは徴発から始めねば――」
そう言うファラの言葉を切って、ピピニーデンが今度は口角の片側だけを緩く上げた。
「アーティ・ジブラルタルにはマスドライバーがあります。
それを使えば、中佐は数日後にはアメリア政庁に着いているのではないですか?」
「ジブラルタル…?しかし、あそこは…かつてジオンさえ手を出さなかった中立区域だ。
宇宙引越公社のマスドライバーを、頼み込んで使わせてもらえと?」
ファラは、驚愕しつつも悲壮感と諦観を滲ませた貌であった。
ジブラルタルのマスドライバー台は思想や陣営を問わぬ人類の宝として、
宇宙世紀を生きる者にとっては手を出さぬのは常識であった。
永世中立を掲げる宇宙引越公社によって運営されており、
そこに手を出せば世界中から総スカンを食らうのは容易に想像できる。
「そういう事になるでしょうな。
マスドライバーを使うというなら我が隊が中佐をジブラルタルまでお送りしますが、
その後は中佐がご自分で交渉をする事になります」
そういうことか、とファラは察した。
1年戦争でも中立を保ち続けたアーティ・ジブラルタルを獲れと言っているのだ。
それも「自分で交渉しマスドライバーを分捕ってこい」ということは、
つまりファラの責任で永世中立地帯を占拠せよと言っているに等しい。
しかもそれを正式な命令に含めず、ピピニーデンに匂わすように提案させるというのは、
あくまでファラの独断で貴重なマスドライバーを占拠させようということらしい。
成功
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