獣の時代
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そんな当たり前の事も今の錯乱気味のクロノクルには分からない。
「う…姉さん…マリア姉さん…………ぐっ、うぅ…」
寝返りを打つことも出来ないクロノクルが、呼吸荒く呻く。
熱を持ち、爛れたクロノクルの額に柔らかで華奢な手がそっと添えられた。
「ね、姉さん…来て、くれたんだ……姉さん…」
朦朧とするクロノクルには、その温もりに覚えがあった。
間違いなく姉、マリアのものだった。同じ温もりだった。
触れられているだけで優しさが伝わってくる、そういう手だった。
そこに来て、姉が口ずさんでいた歌までが聞こえて、
クロノクルの心はすっかり昔に戻っていた。
フォンセ・カガチに見つかる前…
貧しくとも、姉と自分と…姉が生んだ何処の馬の骨とも知れぬ男との子と、3人の生活。
その生活は、温かで幸せだった。
慎ましやかで、優しい日々だった。
姉は姪を出産してから占い師としてメキメキと頭角を現して、
娼婦という辛い仕事から抜け出せて、貧しいながらも確かな幸せがあった時代。
「姉さん…その歌、もっと…歌ってよ……俺、好きなんだ、それ…ひなげしの――」
クロノクルから痛みが引いていく。
歌と、添えられた手が彼の苦しみを吸い取ってくれるようだった。
顔中に浮かんでいた脂汗も引き、クロノクルの苦悶に満ちた顔はすっかり穏やかになって
静かな寝息までたてて深く眠ってしまった。
すぅすぅと、寝息をたてて眠りだした敵パイロットを見て、
手を添えていた少女シャクティは安堵した表情だったが、
すぐに怪訝な顔になって宇宙から来た侵略者たるベスパパイロットの顔を見た。
「…この人……お母さんの歌を…知っている?」
クロノクルだけではなく、シャクティもまた
彼の顔を見、触れていると何故か懐かしいものが心の奥からこみ上げてくるのを感じたが、
「シャクティさん、どうかな…やっこさんの様子は」
カミオン隊の医師レオニードが小休止を終えて戻ってきて、
そのこみ上げてくる何かは霧散して消えてしまった。
「あっ、はい。落ち着いています……今、寝ました」
「おお、本当だ。随分穏やかに寝ているな…私の時はもっと容態が悪かったのに。
シャクティさんは看病の達人かもなしれんなぁ。ははは」
「いえ、そんな…ウッソと2人でずっと暮らしてましたから…少しは手当も出来るってだけです」
優しい少女はくすりと笑って、席をレオニードに譲りながら尋ねた。
「あの…ウッソは、無事なんで
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