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冥王来訪
第二部 1978年
歪んだ冷戦構造
ライン川の夕べ その3
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「ここだけの話だが」
と、キルケに関するいろんな機微を、予備知識として洩らしてくれた。
 いま政府の方では、米軍が開発中の新型爆弾でもちきりだという。
新型爆弾の配備が実現するまでの間、空白期間を埋めるためにゼオライマーを使う。
それにあたって、設計者の木原博士の機嫌を取るために、娘や若い人妻などをすすめることになっている。
だが、まだそれぞれ人選中で、情報機関が、はたらき出すまでにはいたっていない。
「木原博士は……、本当に、よい機会に、ご訪問にあったものといってよい。
ボンにおいでなさったら、ぜひ、キルケを推挙(すいきょ)申し上げるつもりでおった」
老将軍はそんなことまで言ったりした。
 
 バルクは、あやぶんで、
「じゃああれですか。ゼオライマー獲得のために将軍のお孫さんを捧げようっていうんですか。
あんまりじゃありませんか。
しかし参ったな。こういう時にユングの奴でもいればな」
「君の同級生の、アリョーシャ・ユング嬢か。
たしか彼女は、連邦情報局員で、東ベルリン勤務だったよな」
「はい。彼女は常設代表部の職員として東ベルリンにいましたが、今は外務省に出向し……」
 
 バルク大尉の発言に出てくる常設代表部。
その機関は、東ドイツにおける西ドイツの外交業務をする事務所である。
 名こそ「ドイツ連邦常設代表部」であるが、その実態は西ドイツ大使館であった。
また東ドイツ当局も、事実上の大使館と認めていた。
 これには理由があった。
1968年にウルブリヒトら指導部が決めた憲法が原因である。
1968年憲法第8条の条項、特に統一の要件にこう書かれたためである。
「ドイツ民主共和国とその国民は、民主主義と社会主義を基礎として統一されるまで、二つのドイツ国家が徐々に和解することを目指す」
第8条が制定された時点で、東西ドイツの問題は解決済みという立場を取っていたのだ。

老将軍は、注意ぶかく、窓のそとを見て。
「外務省だって。それで、どこに……」
「米国の、ニューヨーク総領事館に勤務しております……」
「なぜだね」
「東の戦術機隊長、ベルンハルト中尉がニューヨーク総領事館の武官を務めています。
彼との接触を図る目的で……」
それまで黙っていたハルトウィック上級大尉が口を開く。
「例の美丈夫ユルゲン・ベルンハルトか」
 バルクの直属上司である彼は、同じような立場であるユルゲンに対抗意識を持っていた。
自分になくて、彼にあるもの。
 羨むような金髪に、人を引き付ける様な、愁いを湛えたスカイブルーの瞳。
ギリシャ彫刻のごとしと形容できる、彫りの深い美貌であった。


一言のもとに、ハルトウィックはその人物までをけなし去った。
「BNDは、東の色男を誘い込むために、デートクラブの真似
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