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冥王来訪
第二部 1978年
歪んだ冷戦構造
ライン川の夕べ その3
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をついた。
マサキの言動は、幾多の死線の乗り越えてきた工作員の心を戸惑わせるほどであった。


「諸々ありがとうございました。彩峰大尉殿。改めて自己紹介いたします。
ドイツ連邦軍のキルケ・シュタインホフです。
日本に関し、いっこう不案内な若輩者ではございますが、今後ともよろしくお願いします」
と、彼女はまず彩峰を拝してあいさつを先にした。
「ねえ、ヘル・木原……、さっきのお詫びでなんだけど、踊らない」
マサキは、磊落(らいらく)に応じる。
「すまぬが、俺は踊りは不得手でな……」
一応マサキに気を使って、愛そう良く受け答える。
「その辺は、将校の私がリードしますから……」
 脇で見ている白銀たちは、ハラハラしていた。
キルケの横顔が傍目に見てひきつっているのが分かるほどであったからだ。
 キルケからの誘いを鼻先でせせら笑いながら、追い打ちをかけるようなことを口走る。
「くどい!」
キルケは彫りの深い顔を真っ赤にさせながら、叫んだ。
「失礼しました」
その場を収めるべく、白銀は立ち上がって、立ち去ろうとするキルケの右腕をつかむ。
御嬢様(フロイライン)、僕でよければ」
その際、左手に持ったグラスをマサキに渡して、広間の中央にエスコートしていった。

マサキは気の抜けたシャンパンを飲んでいると、肩をたたく者があった。
陸軍大尉の礼装姿の彩峰は、
「木原よ」
彼は、そういうとマサキの左肩から手を離す。
 マサキは振りかって、彼の方を向く。
じっと彩峰の真剣な顔を見つめた。
「一つ忠告してやる。こういう場での、女からの誘いは受けるものだ」
そういうと、唖然とするマサキの前から去っていった。


(「この宴席の場を壊すような真似も考え物か」)
 そう思いながらマサキは、アイスペールから取り出した冷えたビールをグラスにあける。
グラスを持ったまま、ゆっくりと白銀の方に進み、バドワイザー・ビールを進めた。
「なあ、白銀よ。バドワイザーでも飲まぬか」

 白銀はマサキから渡されたビールを貰うと、即座にその場を後にする。
開いた右手で、キルケの右腕をつかむなり、
「俺のようなつまらぬ男と踊って、後悔したなどと申すなよ」
そのまま、滑るようにして、広間の方に導いていった。

 
 二人は、周囲の喧騒も気にならぬほど、軍楽隊の演奏に合わせ、陶然と踊っていた。
空色のロマンチックスタイルのドレスの裾を翻しながら、キルケはマサキにそっと囁き掛けた。

「あなたの事をなんて、お呼びすれば、良いかしら。
博士(ドクトル)、それとも上級曹長(フェルドウェベル)……」
娘御(フロイライン)よ、俺は木原マサキ。ただの日本人で、つまらぬ男さ」
「フロイラインじゃなくて、私には、キルケという名がご
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