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イベリス
第百一話 残暑を感じてその六

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「そうなりますので」
「余計にですね」
「言わないことです、若しその人が憎しみのあまり」
 怨みにそれが加わってというのだ。
「憎しみに心を支配されて」
「そうなってですか」
「復讐鬼になれば」
「復讐鬼ですか」
「その人は怨み憎んでいる人に何でもします」
「それが復讐鬼ですか」
「例えて言うならかちかち山です」
 速水はここでこの童話の話をした。
「あの童話の兎です」
「ああ、あの」
「おわかりですね」
「あの兎狸を成敗しますが」
「それでもですね」
「酷過ぎますよね」 
 咲もどうかという顔で答えた。
「幾ら何でも」
「物凄いネチネチといたぶってますよね」
「これ以上までにない位残酷に」
「太宰治が言っていますが」
 他ならぬそのかちかち山を御伽草紙という作品の中で書いてだ、太宰にはこうした作品も存在するのだ。
「あの兎は敵討ちにしてはです」
「何かおかしいですよね」
「敵討ちならです」
 お婆さんのそれならというのだ。
「堂々と狸の前に出てです」
「言ってですよね」
「名乗りを挙げて」
 そうしてというのだ。
「正面からです」
「ばっさりでしたね」
「そうするのがです」
 まさにというのだ。
「普通ですが」
「あの兎違いますよね」
「何度も騙していたぶってです」
「最後は沈めて殺していますね」
「助けるふりをして」
 そのうえでだ。
「叩いて溺れさせて」
「それで殺していますね」
「あれは卑劣です」
 速水は言い切った。
「どう見ても」
「あの兎は」
「あれこそがです」
 まさにという口調での言葉だった。
「復讐鬼のです」
「やることですか」
「はい」
 そうだという返事だった。
「あれこそが」
「怨みと憎しみばかりになると」
「ああなります」
「あんな酷くなるんですね」
「兎のしたことは正しいでしょう」
 速水はこうも言った。
「お婆さんの敵討ちは」
「悪いことをした狸を成敗することは」
「ですが延々と何度も騙していたぶって」
「大火傷負わせて傷口に芥子とか縫って」
「最後は溺れさせて殺すことはです」
 泥舟に乗せ江だ、これまた騙して。
「どう考えてもです」
「卑劣で」
「残忍です」
「物凄いですよね」
「あの行為はとてもです」
 それこそと言うのだった。
「認められるか」
「認められたらですね」
「その人は同じくです」
 その兎と、というのだ。
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