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木彫りで
第三章
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「ありませぬ」
「そうなのか」
「この話まことと思われますか」
「思う、そなた程の武辺ならある」 
 忠勝の武勇を知っているからこその言葉だ。
「それなら彫っておってもな」
「それがしならですか」
「言われてみれば傷付かぬこともある」
 こう言うのだった。
「それもな」
「左様でありますか」
「うむ、それでそなたの話でわかった」 
 秀吉は笑って話した。
「何故彫るかな、話してくれて礼を言うぞ」
「いえ、それには及びませぬ」
「ははは及ぶわ、だから褒美をやろう」
 こう言ってだった。 
 忠勝に小刀を出した、そのうえで笑って話した。
「これで好きなだけじゃ」
「彫れというのですか」
「そうじゃ、これは只の小刀ではない」 
 秀吉は忠勝に笑ったまま話した。
「わしがお主の為に優れた刀鍛冶に命じてな」
「造らせたものですか」
「そうじゃ」
 まさにというのだ。
「それをお主にやる、それでじゃ」
「この小刀で、ですか」
「好きなだけ彫るがいい」 
 これからもというのだ。
「木をな、そうせよ」
「そうですか、それでは」
「お主の様な武の者が木彫りの様な細やかな趣味を持つというのも一興」
 秀吉はこうも言った。
「ならばその趣味をな」
「これからもですか」
「続けよ、よいな」
「有り難きお言葉、それでは」
「その様にな」 
 秀吉はこの場では笑顔のままだった、そしてだった。
 その小刀を受け取った忠勝は木彫りを続けた、そのうえで多くの木彫りを彫っていった、そうしていったが。
 ある日だ、彼は家康にこんなことを言った。
「そろそろ木彫りを終えることになるかと」
「それはどうしてじゃ」
「彫っている時に指を怪我しました」
 こう言うのだった。
「これまで戦の場でも彫っている時も傷一つ負いませんでしたが」
「お主はそうであったな」
 家康もそれはと応えた。
「そういえば」
「それがこの前指を怪我しましたので」
 だからだというのだ。
「どうやらそれがしは今年のうちにです」
「それで木彫りを終えるのじゃな」
「戦の場に立つことも」
「そうか、お主自身が言うのならな」
 それならとだ、家康も応えた。
「まことであろう」
「上様には申し訳ありませぬが」
「その言葉はよい、これまでよく働いてくれた」
 家康は謝罪する忠勝に逆に礼を述べた。
「感謝するぞ、ではな」
「はい、それでは」
「うむ、達者でな」
 家康は忠勝に優しい言葉をかけた、そうしてだった。
 彼が世を去ると心から見送った、本田忠勝は生まれてはじめて刃の傷を受けたその年に亡くなった。それは彼が言った通りであり趣味の木彫りをしていた時だった。戦国きっての名将の逸話の一つである。


木彫
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