第三章
[8]前話
「何時の間に生えたんだ」
「気付けば生えたが」
「この松は何だ」
「どうして寒田と安是の間に生えたんだ」
「これはまさか」
ある者がここで言った。
「社の二人がこの度夫婦になるな」
「ああ、そうだな」
「そうなるな」
「今その話でこの場はもちきりだが」
「共に奇麗な者同士だしな」
「まさに美男美女」
「話にならぬ筈がない」
他の者達も口々に応えた。
「寒田と安是でな」
「もうすぐ式とのことだが」
「それと関係があるのか」
「この松達はそうなのか」
「そうではないのか、想い合う二人がだ」
郎と嬢子がというのだ。
「互いを想う気持ちが松になりだ」
「それでか」
「二本の松が生えたのか」
「二本となると一対だが」
「そうなったのか」
「そうでないか、だとするとな」
それならばというのだ。
「この松は二人の松だな」
「そうなるな」
「実にいい松だ」
「想い合う二人の気持ちそのものだから」
「こんないいものはない」
「全くだ」
人々はこう話してだった。
その松を見てそういうことかと頷いた、この話は二人の親達にも伝わったが彼等もそれならとなってだった。
「ならばだ」
「そうだな、式はそこで挙げましょう」
「二人の想いが松になったなら」
「それならあの場所が一番です」
それぞれ話をしてだった。
式はその松の前で挙げた、こうして二人は夫婦となり長く幸せに暮らした。
人々はその話を聞いて思った。
「想いは木にもなる」
「それが強いならば」
「そういうものなのだな」
「ではその松達をだ」
「二人の想いだからこそ」
「大事にしていこう」
こう思ってだった。
その一対の松達を大事にする様になった、それは長く続き今もそれは続いていてだった。
茨城県神栖市の公園には二人の像がありしかもその後ろには松が映っている、二人の気持ちはそのままである。
この話には主に言われている話があるがここではごく少数派の説を題材にして書かせてもらった、少しでも多くの人が読んでくれたなら幸いである。
池のほとりの 完
2022・11・15
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