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お兄さん。オレのあいさつ……無視したよね?
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 鳥居を抜け、外に飛び出した。

 進はそこが『神社前の道路』だと認識する余裕すらもなかった。
 かぶっていたバケットハットが落ちる。
 右にも左にも曲がらず、体を前傾させ、とにかく子供から逃げようと足を動かした。

 ほとんど車も通らない、片側一車線の、さほど大きくない道。
 その先は――

 大きく、深い水路。

 激しい降雨による視界不良のなか、目の前にあらわれた深淵。
 後戻りするにはもう手遅れだった。
 前に出した足はどこにも着地せず、闇へと沈んでいく、はずだった。

 しかしそこで、腹部をきつく締められた感覚がした。
 強く後ろに引き戻された、進の体。
 水路の脇を覆っていたシロツメクサの上に、尻餅をついた。

 何が起きたのかはわからない。
 起き上がりながら水路から離れ、後ろを見た。

「……!」

 そこで進は初めて気づいた。自分の腹部に巻かれていたのは、髪の毛だったのだ。
 男の子の頭から異様に長く伸びていたそれが、進の体から離れる。
 地面に着くことなく、ゆっくり戻っていった。

「きみは――」

 なぜか、彼の姿は雨に埋もれていない。
 すでにずぶ濡れの進とは対照的に、男の子は髪も、Tシャツも、ハーフパンツも、まったく濡れていないように見えた。
 もう間違いない。人間ではない。

「このタイミングなら、大丈夫そうですか」

 男の子はそう言って、少し笑ったように見えた。
 目がまた赤く光る。今度は、かなり強めに。しかし不思議なほどまぶしくなかった。

 そして彼の姿が変化していく。
 褐色の肌は白くなり、真っ黒だった髪はやや淡くなっていった。

「お久しぶりです」
「う、うわああっ!!」

 その顔、その姿。
 記憶のものよりも少し小さく、線がより細いようにも感じたが、間違いなく進が十二年前にここで会った子供のものだった。

 声も、記憶の中にあるものより落ち着いていて静かだった。しかしやはり、まぎれもなくあのときの子供のものだ。まるで豪雨の音を無視して通ってきているように、明瞭に聞こえた。

「あっ、まだ大丈夫じゃなかったですね。すみません」

 叫び声を上げながらまた後方に逃げようとしてしまった進に、ふたたび髪が伸びてくる。
 今度は腹部だけでなく、腰や胸までぐるぐる巻きとなった。

 そのまま、上方向に持ち上げられた。
 空中で半回転されて男の子のほうを向く形となった進は、逃れようと足をバタバタさせる。

「た、たっ、たすけて!」
「お兄さん、落ち着いてください」
「こ、ここに出る幽霊って、や、やっぱりき、きみのことだったのか! あのときのことをずっと恨んでいて! ぼ、僕を殺そうと!」
「……」
「も、申し
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