暁 〜小説投稿サイト〜
魔法絶唱シンフォギア・ウィザード 〜歌と魔法が起こす奇跡〜
AXZ編
第153話:戒めから解放される狂気
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颯人〜、何とかならない?」
「俺が手品見せて2人を楽しませてなんとかなるなら幾らでも見せてやるんだがねぇ。こればっかりは……」

 今回の件で何よりも予想外だったのは、透の誰に対しても向けられている優しさが仇となってしまった事だ。クリスにとっては憎い相手でも、透は必死に守ろうとした。それが納得できず信じられず、結果2人の間に大きな溝を作ってしまったのである。
 この関係を修復するのは容易ではないと、颯人はハンドルを握りながら大きく溜め息を吐かずにはいられなかった。その溜め息で運転席の空気はさらに重くなる。

 だが運転席の空気の重さはまだマシな方だ。荷台に乗っている響と翼は、その異常なまでの居心地の悪さに息をする事も躊躇われた。

「(翼さん……どうします?)」
「(私に聞かないでよ……どうしようったって、どうしようもないでしょう)」

 軽トラックが走る音にかき消されそうになりながらも小声で話す2人の前には、透とクリスの2人が座っている。だが普段であれば寄り添い合って座っている筈の2人の間には、2人を知る者達からすればあり得ない程大きな隙間が空いていた。

 その内の片方、クリスの方を見れば、目元にはまだ泣き腫らした涙の痕が残っており目も少し赤い。クリスはその顔を透に見せないように……或いは透の顔を見ないようにしているかのようにそっぽを向いている。

 透はそんな彼女に、躊躇いながらもを手を伸ばそうとしては引っ込めるを繰り返している。時折首に手を当てて口を開けているのは、もしかすると声を出そうとしているのかもしれない。

 そんな時、軽トラックが大きめの石を踏むかしたのか荷台が大きく揺れた。振り落とされるほどの大きな揺れではなかったが、僅かにバランスを崩し手を荷台の床についてバランスを取ろうとしてしまうくらいには揺れた。

 クリスも例外ではなく、倒れそうになる体を支える為手を伸ばした。そのお陰でクリスの手が透に近付いた。

「……」

 今なら手を取れるかもしれない。そう思ったのか、透は手を伸ばしてクリスに触れようとした。
 だが彼の手が届く寸前、クリスは逃げるようにサッと手を引っ込め、彼からさらに距離を取ろうと荷台の端に移動してしまった。

「!?…………」

 離れていくクリスの姿に、透は息を呑み捨てられた子犬の様な顔をして俯いてしまう。

 その光景に響と翼は顔を見合わせると、胃が痛んだような気がして胸の下に手を当てた。

 軽トラックは重い空気を乗せてそのまま走り続け、そしてその途中弦十郎からの通信に寄りパヴァリア光明結社が新たな騒動を起こした事を知るのだった。
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