誕生日
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あと数十分で陽が昇る、誰もいない厨房。
すでにバータイムも終わり、店主であるタカヒロも体を休めているその時間。ハルトは前もって、朝準備の当番をこの日に指定していた。
「ん……っ!」
軽くストレッチをしたハルトは、てきぱきと準備を終わらせる。在庫に問題がないことを確認し、食器類のメンテナンスを終え、皿洗いも残りがないことをチェックする。
「よし……」
手を拭いたハルトは、これ以上の仕事はないと、厨房から奥のリビングルームに戻る。
店主であるタカヒロは、自らの分の食器も片付けており、改めてハルトがする仕事も残っていない。
ラビットハウスの住民用の皿を食器棚から取り出し、台所に置く。その足で、ハルトは冷蔵庫の扉を開けた。
昨夜遅く。誰にも見つからないように買ってきたそれを取り出すハルト。白い箱を開封すると、その中からはショートケーキの一切れ___と、その上に白い、封筒状に折りたたまれた手紙が姿を現した。
「……!」
開けた途端、ハルトは驚愕を露わにした。
『誕生日おめでとう ハルト君』
「粋すぎるよ、タカヒロさん」
思わぬサプライズに、ハルトは思わず笑みを零す。
店主のタカヒロが入れたバースデーカードを懐にしまい直したハルトは、彼が眠っている二階を見上げ、頭を下げる。
ハルトがこの日に朝のシフトを希望したその理由。それは、この日が松菜ハルトの誕生日に他ならない。だが、タカヒロ以外から、祝いを受け取ることはないだろう。
なにしろ履歴書でハルトの個人情報を知っている店主以外、誰にも誕生日だと話していないのだから。
同じく買っておいた蝋燭を、ショートケーキの上に突き刺す。テーブルに置いたケーキの前に座り、ライターで火を点灯。
「……」
蝋燭に照らされながら、誰もいない台所でハルトは静かに祝いの言葉を述べた。
「お誕生日おめでとう……松菜ハルト」
ハルトはそう言って、点灯した蝋燭を吹き消す。
蝋燭を外し、ナイフとフォークで、一人で食べるには少し大きなケーキを切り分け、少しずつ食べていく。
味はしない。いつも通り。
「……ん?」
ほとんど小声。
だがそれは、明確にハルトの傍から聞こえてきた。
「みんな……」
レッドガルーダ、ブルーユニコーン、バイオレットゴーレム。
見回りから戻って来た使い魔たちが、小さな声で歩み寄って来た。
「お前たちも食べるか? ……って、食べるわけないか」
ハルトはそう言いながらも分け皿を持ってきて、それぞれの使い魔に少しずつケーキを分け与える。
ユニコーン、ゴーレムは、それぞれ食べるような動作を行う。だが、ケーキのホイップクリームがその口部分に付着するだけ
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