第二部 1978年
歪んだ冷戦構造
ライン川の夕べ その2
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はそれなりの理由があろう。
まず、どんな要件なのか、言い給え」
アーベルは、マサキを冷たく突き放す。
「フフフ、アーベルか。最初からそう言えよ……。
俺はお前とこの国の通産省に関係のある話がしたくてな……」
相手が驚いている様子に、マサキはニヤリとほくそ笑んだ。
「ここでは邪魔者も多い。今週の木曜日……都合がつくか」
「……」
「まあ、とりあえず俺がベルリンに乗り込むから事前の折衝を頼む。
いつぞやの様に、国境検問所から入るのに2時間近く尋問されるのはたまったものではないからな」
最初の訪問の際は、国境警備隊の検問に対してけんか腰になってしまったのを思い出した。
チェックポイントチャーリーで、鞄はおろか、ポケットの縫い目まで念入りに調べられたものだ。
あの時は彩峰や篁がいなかったら、間違いなく騒動になっていたろう。
「しかし、君は何を考えているのかね。夜の9時だぞ。
こんな時間に年頃の娘と電話しようなどとは、ふしだらすぎる」
アベールの勢いに気押され始めたマサキは、逃げるように告げる。
「アイリスに伝えておいてくれ。よろしくとな」
アーベルは憤懣やるかたない声で、きっぱり答えた。
「このたわけものが!」
電話越しに聞こえるを怒鳴る声から耳を離して、受話器を勢いよく本体に戻した。
そして会話は終わった。
全く、若い娘がいる家に電話をかけるのがこんなに疲れるとは思ってもいなかった。
今度、ユルゲンやアイリスに携帯電話方式の通信装置を作って、改めて渡すか。
電子部品を買ってきて、簡単なポケットベルの代わりでも作るか……
あるいはショルダーフォンでも準備して、アイリスたちに持たせるか……
ポケットに入る携帯式の電話を持たせるのもいいかもしれないが、盗難が怖いし、何より人前で電話などをされたらさぞかし目立つであろう。
一応、アイリスたちには次元連結システムを応用した指輪や首飾りを持たせている。
だが一向に使った様子がない。
思い返せば、彼女たちには、シュタージという送迎付きの護衛が四六時中、傍にいるのだ。
彼らを通せば、ほぼ100パーセント足取りがつかめる。
連絡手段に関しては、マサキは時代ということで後回しにすることにした。
どちらにしても、アイリスディーナは軍隊の中にいる。
休暇中のベアトリクスの様に家に行けば、簡単に、いつでも会えるわけではない。
簡単に会えぬとなると、諦めがつくどころか、かえって未練がわくのだ。
一目ぼれして、言いつのった娘だけになおさらだった。
(『罠とはわかっていても、このまま引き下がれるものか』)
目の前にアイリスディーナの美貌が浮かんでは消えて、狂おしい思いに悩む。
あの娘に再び会いに行けるのならと、マサキは頭に血を上らせ
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