第二部 1978年
歪んだ冷戦構造
ライン川の夕べ その2
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20世紀中ごろのままで止まっている。
東ドイツへの電話も交換手を通してではないと無理であり、いちいち東ベルリンにある交換局を通して、ミッテ区やパンコウ区といった住宅地や商用地につなぐ方式だった。
東ベルリン郊外にある幹部用高級住宅地、ヴァントリッツへの電話は予想以上に時間のかかるものであった。
複数の電話交換手をまたいだ後、やっと目的のブレーメ家に電話がつながった。
受話器を通じて入るわずかな雑音から、マサキは盗聴されていることに気が付いた。
一応、次元連結システムのちょっとした応用で、相手からの録音は出来ないようにしてはあるが、通話相手から話の内容は間違いなく書き起こされるであろう。
何を話すか、あらかじめ決めておくことにした。
この時代の国際回線経由の電話回線は、電話交換手を通じて、あるいは同一の回線から振り分けられたものを通じて盗聴が簡単にできた。
党幹部であるアーベルには、間違いなく護衛についている。
シュタージか、軍の特殊部隊『第40降下猟兵大隊』かは、問題ではない。
受話器を握る手が汗でまみれていくのを実感しながら、向こうからの応答を待った。
「もしもし」
低い男の声で呼びかけがあったので、マサキはドイツ語で返す。
「もしもし、木原だが……」
その瞬間、受話器の向こうでハッと息をのむ気配がした。
「アーベル・ブレーメを出してくれないか」
「……」
「いないのなら、アイリスか、ベアトリクスでも構わん」
軍人に任官後、国外勤務の多いユルゲンは、アイリスディーナのことを心配した。
自分が国外にいる間は、父の同僚、ボルツ老夫妻では心もとない。
だからブレーメ家に、最愛の妹の面倒を見るように頼んでおいたのだ。
これはベアトリクスとの結婚前からしていることであり、アイリスも納得済みだった。
また義父のアーベルと義母のザビーネなどは、妹を実の娘のようにかわいがってくれたのだ。
マサキはそのことをユルゲンから聞いていたので、あわよくばアイリスと電話ができると踏んで、このようなことを無理強いしてみたのだった。
向こうで咳払いをする声を聴きながら、だんだんといら立ってきたマサキは煙草に火をつけた。
紫煙を燻らせながら、少し強めに言い放った。
「護衛のデュルクか、だれか知らんが……こっちは国際回線でかけているんだ。
さっさと、アーベルを呼んで来い」
「さっきから聞いてはいるが、君がここまで無礼な人間とは思いもよらなんだ。
それに私の代わりに娘たちを呼び出そうとは何だね」
電話口の相手はアーベルだった。
マサキは、アーベルに軽くひねられたようなものだった。
流石は、30代で政治局員になる人物である。
役者が違うとは、まさにこの事だった。
「九時過ぎに電話をよこすに
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