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冥王来訪
第二部 1978年
歪んだ冷戦構造
F5採用騒動 その1
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そうに煙草をふかしているとき、声をかける人物があった。
稀代の知日家として知られる、フランス首相であった。
壮年のこの男は、若かりし頃、陸軍将校として勤務し、軍部に人脈があった。
また青年時代は、フランス共産党員でありながらハーバード大学にも留学するなどと、政治の世界を自在に泳ぐ優れた直観力の持ち主でもあった。

 濃紺のチョークストライプのスーツに、ベークライトの茶色い縁の眼鏡をかけた黒髪の男。
日本風に会釈をした後、ゆっくりとした調子で語りかけてきた。
「ムッシュ・木原、どうして科学者のあなたが矢面(やおもて)に立たれるのですか。
天のゼオライマーというスーパーロボット、そして新型の機関、次元連結システム……。
あなたに万に一つの事があれば……この世界は再び危機に瀕するのですよ」
 マサキは、通訳をする白銀の言葉を待たずに返答する。
彼に対して、ずけずけと自分の意見を言った。
「それは、この木原マサキという男が、つまらぬ科学者だからだよ。
ロボット工学の科学者だからこそ、遺伝子工学の科学者だからこそ。
俺はルイセンコの似非学問で、近代科学を軽視したソ連社会主義が許せない。
BETAという宇宙怪獣に40億の奴隷労働力が貪られるのが、我慢できない。
ただ、それだけの事さ」

「それに大の男が女子供を矢面に立たせて、後ろで研究開発なぞする振りをして隠れんぼをする。
実に情けないではないか。
あのようなゴム製のスーツを着て、満足な稼働時間もない、薄ぺらな装甲板のロボットに()いた女性(にょしょう)を乗せるなど、惨めではないか」
首相は、初対面の彼から、いきなりこれをいわれたので、つい目をキラと赤くうるませてしまった。
「妻や娘が、仮にいたとしても、俺は差し出すような真似はせぬ。
場末の娼婦でも着ない服を着せ、そんなガラクタで怪獣退治をさせるなど、恥ずかしくて出来ぬわ。ハハハハハ」
とマサキは笑い捨てる。
「男が勝負をかけるには、常に全力投球でなければならない。
BETAという怪獣退治は、100点満点のロボットでやらねばならない。
10点、20点と段階を踏んで、最後に100点などでは遅い。
ここぞというときに、救ってやらねばならぬ存在や守るべきものがあるのではないのか。
違うか」
マサキは、しんから言った。
「この世界の科学者どもは、時間をかけすぎる。
救うべき命や富、貴重な文化。国土や資源も失われてからでは遅い……
だから貴様らが救えぬようなら、この俺が地球ごと分捕ることにしたのよ」

首相はマサキの話を聞いているあいだに「うむ」と、二度ほどうなずいていたが、
「ムッシュ木原、ではあなたは今の婦人解放運動にも反対だと」
と、マサキは、彼のせきこむ語気をさえぎった。
「ああ、そんな象牙
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