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冥王来訪
第二部 1978年
歪んだ冷戦構造
F5採用騒動 その1
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 だんだんと湯気が晴れ渡ってきたとき、乳白色の裸身が浮かび上がる。
白銀は、自分のしたことを後悔した。
耳まで赤くした美久の姿を一目見て、彼女から目をそむけてしまう。
「先生、20分差し上げますから早いとこ、すましてください」
 赤裸で椅子に腰を落としていたマサキは、ただただ苦笑するばかりであった。


 さて、マサキたちは、予定より30分遅れて朝食会の会場に来た。
大臣から苦笑され、榊と彩峰には侮蔑の目を向けられるも、いつもの如く不敵の笑みで返した。

 フランス政府関係者との食事は、北欧風の「スモーガスボード」と呼ばれるものであった。
冷たいハムやサラミ、塩や酢漬けの魚類。ぬるいコーヒーに、硬くすっぱい黒パン。
朝から並ぶワインに、ぬるい常温のビール。
 それらはドイツでは当たり前で、朝晩ともこの「冷感食事(カルテスエッセン)
朝食に温かい食事をとるのが当たり前だった、彼にとって非常に不満だった。

「しかし、冷えた食事を出すなど、支那だったら大喧嘩の元だぞ」
と心にある不満をぶちまけた。 

 マサキが前の世界で長くいた支那では、常に温かい食事が一般的だった。
市井の徒ばかりではなく、軍隊でも同じである。
支那兵たちは寒冷な気候も相まってか、冷えた食事を、伝統的に、極端に嫌った。
野戦でも竈を作って、常に温かい食事を取った。
 そばがゆにしろ、麦の雑炊(ぞうすい)にしても温かければ喜んで食べた。
日本人の様に握り飯に漬物などでは決して口にせず、炊煙を気にせず食事を準備した。
支那事変の際、帝国陸海軍は支那人捕虜の食事にも非常に苦労したものであった。



 それに東洋人である自分が、北欧のゲルマン系の様に冷たい肉など食えば、体調を狂わせる。
産業革命の産物とは言うが、如何にドイツが貧しい国だったかを示す事例ではないのか。
 思えば、ドイツは貧しい国だった。

 マサキは食事をほどほどにして、暖かいコーヒーで唇を濡らすと、
「美久、後でアイリスに飯の炊き方でも教えてやれ。
俺はこんな冷えた飯ばかり食うて、病気にはなりたくないからな。
こんな暮らしをしていては、どんな男でも気が違うであろうよ」

 脇に座る美久は思わず顔を上げる。
薄く笑っているが、頬は強張り、視線を斜めに下げるほどであった。
「あまり、皆様を困らせない方が……」
「お前の炊いた麦飯に、焼き鮭を載せた茶漬けなどの方がマシだ。
こんど永谷園の即席茶漬けでも用意しておけ」
美久の頬がさっきより赤くなっていることに気が付いたが、あえて無視する。
額に手を当てて、わざとらしく哄笑して見せた。 
「フフフ。そう拗ねるな」 
そんな彼等の様を、彩峰は睨む勢いで視線を飛ばした。


 マサキがけだる
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