暁 〜小説投稿サイト〜
冥王来訪
第二部 1978年
歪んだ冷戦構造
F5採用騒動 その1
[1/5]

[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話
 晩餐会の翌日、マサキは朝風呂を浴びていた。
そして、いつもとの片頭痛は違う、頭痛にひどく悩まされていた。 
やはり、違う種類の酒を、まぜこぜに飲んだせいであろう。
日頃、酒を飲まない彼に、二日酔いの頭痛は堪えた。

 何より、西ドイツのキルケと名乗る少女との一時の逢瀬もあろう。
マサキにとっても、キルケのような娘は久しぶりに心を惹かれた女性である。
 初対面で平手打ちをされるなどと言う事は、彼にとっては、骨髄に徹するほどの、衝撃だった。
ベアトリクスに叩かれたときは、ゼオライマーに強引に乗せようとしたためであったので、自分が悪いのはよくわかっていた。
マライに煙草を進めたとき、嫌な顔をされたのも彼女が喫煙習慣がなかったためであるのを知って、納得していた。

 このキルケの恐れを知らぬ態度に対して、興味を持たなかったかと言えば、うそになる。
彼女の姿を見たとき、尻まで届く、恐ろしく長い黒髪に目が行った。
確かに、あまり豊かではない東ドイツ人の標準的な身長のマライより小柄で、スリムな体系にショックを受けたのは事実だ。
(1970年代のドイツ人女性の平均身長は165センチ。2010年代の統計だと168.3センチ)
彼女に男が近寄らなかったのは、背が低く、痩せていて胸がないからではない。
あの老将軍・シュタインホフの強面を前にして、娶りたいなどという勇気がなかったからではないか。

 さしものユルゲンですら、たじろいたであろう。
もっともあの男は自分の妻や妹を基準に女を選ぶ節があるので、まず見た目でキルケは除外されよう。
 思えば、マライも着やせするタイプではなかろうか。
でなければ、巨乳好きのユルゲンと男女の中にはなるまい。
 ユルゲンの確認を取らずにわがものにしていれば……
マサキは、惜しいことをしてしまったと、一人心の中で悔やんだ。
 

 マサキは、その様なことを思い悩みながら、たくましい青年の体に、熱い湯を浴びる。
「今日はゆっくり出来るんだろうな……」
脇で背中を流す美久に予定を尋ねた。
「榊次官と一緒にフランス軍関係者とお会いする予定になっています」
「キルケとか言ったな。あの娘と遊び疲れたからと言って、断れ」
思わず振り返ると、美久は一瞬言葉を失ったかのようになる。
「ええ、それは先方には無体では……」
驚く美久にかまわず、ザブっと熱い湯を頭から浴びなおした。

 そのようなやり取りをしているとき、風呂場に入ってきたものがあった。
護衛兼通訳の白銀は、大童で入ってくるなり、
「先生、10分で支度してください」と声をかける。

 湯気が満ちていて、視界が奪われていたことは、美久には幸いだった。
咄嗟に、壁に掛けてあったバスタオルをつかむと両腕で体を覆い、奥の方に引っ込んだ
[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ