第二部 1978年
歪んだ冷戦構造
もう一つの敗戦国 その2
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クルートした美丈夫を用いて、西ドイツのオールドミスや戦争未亡人に近づいた。
西ドイツ官庁内に秘密の連絡網を作り、政界工作を実施した。
しかし、彼の仕事はKGBに比べれば、子供の遊びだった。
KGBは単独で、西ドイツの閣僚や情報機関__憲法擁護局やBND__幹部の個人情報を調べ上げ、高額の報酬を餌に誘い出し、一本釣りにした。
米国のCIAやドイツのBNDも対策はしたが、秘密のスパイ網を知ったのは壁が崩壊し、KGB工作員がモスクワに引き上げた後だった。
つまり、この情報戦争はソ連の独壇場であった。
どうしたら、西ドイツに工作を仕掛けられるか。
マサキが、紫煙を燻らせ、思案をしていた時である。
彩峰が怒って、呟く。
「なんだ、今の話は」
「ちょっとばかし、ノイシュバンシュタイン城でも見に行こうかと……」
「そんなことをこの期に及んで、もくろんでいるとは、まったく反省していぬのだな。
貴様というやつは!」と呟き、
「お前たちだけで南ドイツに行くなどは、もってのほかだ。
これ以上の好き勝手は、軍法会議を開いて、厳罰に処す」
「彩峰よ。安心しろ。
この木原マサキ、うら若い小娘にもてあそばれるほど、初心ではない。
令嬢などを紹介してもらっても、自分の虚栄心を満たす道具になどはせぬ。
それに、ベルンハルトの妹や妻の美しさを見れば、並の女などかすむものさ」
アイリスディーナのいきさつを訊きとっていた彩峰は、なおさら彼の神経質らしい半面をみせて、きびしくこういった。
「また、どこぞの令嬢でも紹介されたら……。誰が話をまとめるんだ」
「ハハハ。それもまた、楽しかろう」
そういってマサキは、彩峰を軽くあしらう。
とにかくそんな冗談も、彼を、いきどおらせていたのであった。
美久が細面に影を浮かべて、
「失礼とは思いますが……」、と告げた。
マサキは笑って、彼女に問いただした。
「申してみよ」
不安げな顔をしながら、慎重に言葉を選び、
「胸の大きさや腰のくびれなどではなく、知性で相手を選んではいかかでしょうか」
マサキは、美久の発言を一笑に付す。
「フハハハハ。率直で前向きな意見、気に入ったわ」
椅子から身を乗り出すと、彼女の細い腕をつかんで目の前に引き寄せる。
「だが、一理ある」
しかし、怒っているようではなかった。
「美久。お前が言う通り、俺の好みじゃないことが分かれば、女どもは騒ごう。
その上、お前にもつまらぬ小言を言われる」
彼を見る美久の表情が、みるみる変わって行く。
何か言いたくても言葉にならない、声にならないと言った表情だ。
「言いすぎました……冗談と思って、忘れてください」
赤面しつつも抗議する美久を遮って、面と向かい合う
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