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冥王来訪
第二部 1978年
歪んだ冷戦構造
もう一つの敗戦国 その2
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由を付けて、断ろうとした。
「下士官の俺が、何故……」
榊は見透かしていたかのように、間髪入れず、理由を述べた。
「君はハイヴ攻略の立役者だからだよ」
そういって大臣の公印と署名の入った命令書を、マサキに見せつける。
「この件は国防大臣の命令だ。嫌とは言わせない」
タバコをもみ消したマサキは、怒っている風でもなかった。
「ま、しょうがねえなぁ。一度乗った船だ。
向こうに就いたら、俺の好きにさせてもらうぜ」
そういってマサキは、椅子より立ち上がる。
困惑する美久の手を引くと、部屋を後にし、自室で準備をすることにした。

 慌しく、飛行機に乗り込んだマサキたちは、JFK空港より空路ハンブルグに向かった。
日航機のチャーター便に乗って、機窓より渺茫(びょうぼう)たる大西洋をながめながら、
「しかし、この俺を西ドイツに行かせる理由が分からん。
サミットなぞただの経済会合だろう。なぜ一パイロットの俺がそんなものに……」
思わず、一人ごとをつぶやいていた。
 
 引率役を引き受けている彩峰は、マサキにくぎを刺す。
「簡単だ。貴様がハイヴを全滅させたからだよ。
今後の経済運営にはBETA戦争の後のことも決めねばならん。そういう事で軍事会合になったのだ」
その答えを聞いて、マサキはおもしからぬ顔をしながら、紫煙を燻らせていた。
 
 マサキは、心やすらかでいられなかった。
徹底的にBETAと戦って、そして勝って、いま、深緑の野戦服を茶褐色の制服に脱ぎかえ、紫煙の糸に(しず)かな身を巻かれてみると、ちょうど酔いから醒めたような、むなしいものだけが心に(よど)んでくるのだった。
 こうしている間に、ソ連にしてやられそうな、焦慮に駆られずにいられなかった。

 ふと、そのうちに、彼は椅子から背を離した。
渋い顔をして、タバコを取り出すマサキの様子を見た、白銀が、心配そうに声をかける。
「いろいろお疲れでしょうし、僕と一緒に南ドイツでも会合の間に見てきましょうよ」
マサキは、火をつけたばかりのタバコを一服吸い込むと、
「ドイツの上手いビールでも案内してくれるのか。
俺みたいな少しばかり名の通った人間が、観光地に一人で行くにも危ないからな」
燻らせていた紙巻煙草を灰皿に押し付けると、過去への追憶の旅に出た。
 
 1970年代の西ドイツ情勢は、1950年代の対共産圏への対決姿勢からだいぶ変化していた。
1969年より首相を務めたヴィリー・ブラントは、『東方外交』という前例のない政策を実施する。
自身が進める対共産圏融和政策によって、ソ連以外の東欧の社会主義国家と国交回復を図った。
 時の首相、ブラントの掲げた東方外交は、言ってみれば東ドイツを利する結果でしかなかった。
東ドイツはブラントの差し出した数億
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