第二部 1978年
歪んだ冷戦構造
ライン川の夕べ その1
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からのう」
キルケの表情が、見る見るうちに赤くなっていく。
「気取ることはあるまい、お前自身も俺に気があるのであろう。
だが、安心しろ。俺は15、16の小娘には興味があまりない。もう少し美しくなってから来るのだな」
言葉より先に、キルケの平手がマサキの頬に飛んだ。
「言っていいことと、悪いことがあるわ。日本人がこんなに失礼な人種だとは思いませんでした」
思いもしなかった令嬢の激高に、マサキは自身の右ほおに手を当てて、面食らってしまう。
「それとも、東ドイツの時のように、豊満な美女が誘いに来ると期待してたんでしょう。
私みたいな、痩せっぽちの貧相な娘が来て、ショックを受けた。違って?」
さしものマサキにも、返す言葉がなかった。
「あなたが何度もちょっかいをかけてきても、ダンスでペアを組んで踊るような愚は犯しません」
キルケは、マサキを忌々しげににらむと一人引き返してしまった。
困惑する周囲をよそに、帰ってしまったキルケ。
呆然とするマサキの傍に、タキシード姿の白銀が近寄ると、慰めの言葉をかけた。
「思いっきりたたかれましたね」
「ああ」
「でも案外、脈がありそうですね」
何気なしに白銀が言った言葉に、マサキはかすかな胸騒ぎを覚える。
「どういうことだよ」
「嫌よ嫌よも好きのうちと、申しますから」
「何、あのキルケという娘御は気取っていて、俺を叩いたのか」
「その線も捨てきれませんよ」
(「以前、ユルゲンの妻は俺の頬を二度もぶったな。
ということはつまり……、この俺に気があったという事か」)
彼は心に、ベアトリクスの炎のように赤い瞳を浮かべながら、呟いていた。
「遠慮などをせずに……咲き誇っていた美しい花を、一思いに手折っておけば。
まったく……惜しいことをしたものよ」
その言葉を聞いた白銀は勘違いしてしまった。
マサキは、キルケに一目ぼれしてしまったと。
「その気なら、僕がいくらでも手配しますよ」
「フフフ、待たせた娘がいる身の上で、他の女性に気を奪われるなど……
この木原マサキ、そこまでは乾いてはおらぬ」
そのマサキの言葉を聞いた白銀は、そそくさとその場を後にした。
白銀が引き上げたのを待つかのように、一人の男がマサキのそばに寄ってきた。
「のろけ話とは君らしくないね。木原君」
鎧衣はいつもの着古しのトレンチコート姿ではなく、黒い蝶ネクタイにタキシード姿だった。
「鎧衣。貴様、いつの間に」
太いドミニカ産の葉巻である「アルトゥーロ・フエンテス」を取り出すとマッチで火をつける。
「商工省貿易局(今日の経済産業省貿易経済協力局)の関係者と話をしていてね。どうしても君の手助けが必要だと」
それにつら
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