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冥王来訪
第二部 1978年
歪んだ冷戦構造
ライン川の夕べ その1
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足にできずに蒸し暑かろう。
俺ともう少し早く知り合っておれば、本物の皮膚を使って直してやったものを」
老人は一瞬、驚愕の色を見せるも、何事もなかったかのように挨拶を告げてきた。
「シュタインホフです。どうぞお見知りおきを」
マサキも力強く握手で応じた。

 シュタインホフ将軍は、あいさつを終えるなり、驚くようなことを告げてきた。
「君さえよければ、私の孫娘を側に置いてくれまいか」
マサキは、あまりの言葉にただ苦笑するばかりであった。
「この俺を揶揄(からか)っているのか。
何処の世界に自分の孫娘を贈答品として差し出す莫迦(ばか)が居るのだ……」
 
マサキは、てんで受け付けようとはしなかった。
「待ってくれ、こんな小娘貰っても足手まといだ……銃の一つも碌に撃てまい。
それに徒手空拳で男に襲い掛かられてみろ……目も当てられんぞ」
マサキは、彼女が士官学校在学中、女子生徒の中で首位を維持しているのを知らなかった。
「何とでも言うが良い。ただキルケは……私が言うのもなんだが才色兼備で自慢の孫娘だ。
日独友好の為に君さえよければ……」
マサキは、強気で押し切る男の表情に困惑した。
「娘の意見は聞かないのか……」

体の向きをキルケの方に向ける。
「おい!娘御(フロイライン)
ドイツでは廃れつつある古風な言い回しで、マサキは呼び掛けた。
彼は、ずかずかと彼女のすぐ脇まで歩み寄った。
「俺は、お前のような青い果実を食らうほど飢えてはいない」
その視線は彼女の細面をとらえたまま、微動(びどう)だにしない。
「もっと良い女になってから来るのだな。フハハハハ」
右手をキルケの顎に添えようと伸ばすも、手首をつかまれて払いのけられる。
そして一気呵成に、背中の方に向けて後ろ手にされ、押さえつけられてしまう。
 想定外の出来事にマサキは、ただただ声を上げることしかできなかった。
「な、何をする……離せ、娘御」
苦悶の表情を見せながら藻掻き苦しむと、やっとキルケの方から手を離した。

左手で捻られた右手を擦りながら、キルケの方に向かって訊ねる。
「俺も無理強いする心算も無ければ、貴様等の祖父の都合などどうでも良いからな……。
そこでだ、お前の本心を聞きたい。嫌がる人間を連れて行くほど野蛮ではない。
嫌ならば正直に断る自由もある」
先程までの太々(ふてぶて)しい笑い顔は消え、何時になく真剣な表情を浮かべた。

マサキは、彼女の祖父・シュタインホフ将軍の胸に輝く、数々の勲章を見ながら、キルケを揶揄った。
「貴様が祖父は、かなりの敵機撃墜数を誇る勇者のようだな。
その祖父の(ひそみ)(なら)って、俺を落としに来たのか。
俺ほどの有名人を一人落とせば、並の男100人に声をかけるよりはるかに価値がある
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