第三章
[8]前話
「それで羽柴様はな」
「死んだんやろ」
「そうらしいがわからん」
老人はこのことについては首を捻って話した。
「逃げられたって聞いてるがな、わしは」
「そうなんや」
「若様もな」
羽柴様即ち豊臣秀頼の遺児もというのだ。
「そうらしいが」
「死んだんちゃうんやな」
「どうもな、それでわしはお城が落ちた時何とか逃れて」
今度は自分の話をした。
「公方様の軍勢に紛れて江戸まで逃げてな」
「そうしたんか」
「それで江戸でちょっと職人に雇われて働いて」
そうしてというのだ。
「頃合い見て戻ったんや」
「大坂にか」
「それで店はじめて」
「今ここにおるんやな」
「そや、思えば昔はな」
懐かしむ顔で述べた。
「色々あったわ」
「戦がやな」
「ああ、それでな」
「そのうえでか」
「昔を懐かしんでたんや」
「そういうことか」
「ああ、今な」
太吉に笑って話した。
「不意にな」
「そやったんか」
「昔はな」
またこう言うのだった。
「ほんま戦でな」
「この辺りは焼け野原でやな」
「武具来たお侍が一杯おってな」
そうしてというのだ。
「そのうえでな」
「戦やっててんな」
「ああ、変われば変わるもんや」
「わてが生まれるずっと前はそやったか」
「そや、ぼんは知らんことでもな」
「この辺り昔はそやったんやな」
「大坂はな」
自分達がいるこの街はというのだ。
「そやったんや」
「成程な」
「このこと覚えておくんやで」
「わかったわ」
太吉は老人の言葉に頷いた、そのうえで家に帰った。
このことを親に話すと二人はこう言った。
「まあな、その話聞いてるけどな」
「うち等が生まれる前やしな」
「そう言われてもな」
「そやったんかやな」
「そうなん、わてにはここで戦あったなんて信じられんけど」
それでもとだ、太吉は両親に長屋の中で話した。
「昔は大阪もそんな風やってんな」
「そやな」
「今では想像もつかんけどな」
「ほんまやな、ここで戦あったなんてな」
太吉は子供心ながらに思い言った、そして彼に孫が出来た時に孫にこのことを話すと孫もこんなことを言った。
「そんなん信じられんわ」
「ここで戦があったなんてやな」
「ほんまにな」
「そやけどな」
「ほんまにあったんやな」
「そうや、ずっと昔はな」
こう孫に話した、老人に言われたことを思い出しながら。自分は知らないが大坂はそうした場所でもあることを。
懐かしの古戦場 完
2022・10・16
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