第一章
[2]次話
懐かしの古戦場
大坂の街は賑わっていた、多くの川や堀が流れそこに数えきれない位の橋がかかっている。その橋を通ってだ。
太吉は笑顔でだ、親達に言った。
「橋多いのええわ」
「おお、そやろ」
「橋はええやろ」
両親は自分達のまだ十歳になったばかりの息子に笑顔で応えた。
「大坂は橋が多くてな」
「橋あっての大坂や」
「その橋が多いからな」
「それであちこち行けるんやで」
「そやな、わてその橋見て渡るのがな」
それがというのだ。
「ほんま好きや」
「そやな、ほなな」
「これからも橋渡ってくな」
「そうするわ」
こう言ってだった。
太吉は大坂の街で生きて楽しく過ごしていた。読み書き算盤も習っていた。
そうして日々を過ごしていたがふとだった。
背筋がしっかりした穏やかな顔相の白髪頭の着流しの老人がだった。
周りを見回していた、それでこんなことを言った。
「懐かしいのう」
「爺さん何が懐かしいねん」
太吉は老人に尋ねた。
「一体」
「いや、昔を思い出してな」
「昔?」
「そや、今よりずっと昔をな」
「昔って何時やねん」
「わしが若い頃や」
老人は太助に笑って話した。
「もうな」
「若いって幾つの頃や」
太吉は老人に今度はこう尋ねた。
「それで」
「元和になる前や」
「元和?」
「ああ知らんか、まだ権現様がおられた頃やしな」
「江戸の公方様かいな」
「最初のな」
「それってめっちゃ昔やないか」
権現つまり徳川家康と聞いてだ、太吉は眉を顰めさせて述べた。
「今四代様やろ」
「そやな」
「わしその頃生まれてへんわ」
「ぼんのお父はんお母はんもやな」
「そや、ほんま昔や」
こう言うのだった。
「大体どれだけ前や」
「六十年やな」
笑ってだ、老人は答えた。
「もうな」
「うちの祖父ちゃんと同じ歳やがな」
「そうやねんな」
「爺ちゃんめっちゃ長生きやな」
「古稀超えたさかいな」
太吉に笑って話した。
「そう考えるとな」
「ほんま長生きやな」
「それでわし若い頃はお侍でや」
「そやったんか」
「ここで戦があってな」
「ああ、羽柴様の」
「そや、あの人にお仕えしててな」
そうしてとだ、太吉に話すのだった。
「戦してたんや」
「大坂の陣っていう」
「それでや、そこでもうこの辺りはや」
ここでもだ、老人は太吉に笑って話した。
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