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我が剣は愛する者の為に
一目惚れ
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ない客だったので、思うように売れなかったのだ。
つまり、八つ当たりだ。
彼女はどこから取り出したのか、竹簡と筆を取り出す。
尋常ではない速度で木簡に文字を書き、それを行商人に見せる。

『ぶつかったのは済まない。
 謝る。』

「そんな文字じゃなくて、口で言え!」

『面倒くさい。
 別に言いたい事が伝われば、文字も声も変わらないだろう。』

彼女こと、馬良は少々変わった思考の持ち主だ。
さっきも馬良が書いた通りの事を思っているため、竹簡と筆を常に持ち歩いている。
しかし、この行動が彼をさらに怒らせた。

「てめぇ〜、俺に喧嘩打ってんのかよ!」

『どうして、そうなるのかさっぱり分からない。』

「うるせぇ!」

「ッ!?」

行商人は拳を作り、馬良に向かって繰り出す。
武術の心得は全くないので、避ける事もできずただ目を瞑り、息を呑むだけだ。
これから来るであろう痛みを、必死に耐える準備をしようとした時だった。
パン!!、と拳を受け止める音が聞こえた。
ゆっくりと眼を開けると、後ろから行商人の拳を受け止めている。

「おいおい。
 大の大人がこんな可愛い子に手を挙げて良いのかよ?」

「だ、誰だ!」

「通りすがりのお節介焼きだ。」

その男は行商人の拳を弾き、その一瞬で馬良と行商人の間に入り込む。
大きな後ろ姿、背中の半分くらいまで伸びた黒い髪。
何より、馬良は少しだけドキドキしていた。
こんな体験は初めてだったからだ。

「このっ!!」

行商人はもう一度拳を握り、その男に振りかぶる。
首を少し横に動かして、紙一重で避ける。
左手で避けた拳の手首を掴み、右手で胸ぐらを掴む。
次の瞬間には行商人は空を一回転して、地面に叩きつけられる。

「があはぁ!!」

肺の中の酸素が一気に吐き出される。
手加減したのか、行商人には意識があった。

「頭が冷えたか?
 この子が悪いかもしれないけど、そこは大人の貫録見せて、ね?」

「ち、ちくしょう!」

悔しそうに言って立ち上がり、走ってこの場を去っていく。

「君、怪我はない?」

助けてくれた男が馬良の方に振り向く。
その顔を見た瞬間だった。
バキューン!!、と馬良の大事な何かが貫かれたのは。

「う、うん?
 お〜い、大丈夫かい?」

馬良の目の前で上下に手を動かす。
唖然としていた馬良だが、正気に戻る。

「おっ、気がついた。
 君もちゃんと前を歩いて行くようにな。」

そう言い残して男は立ち去ろうとする。
今までに感じた事のない胸の高鳴り。
馬良は経験がないが、この気持ちは長年待ち望んでいたあれだと直感する。
だからこそ、離れようとする男の手を掴んだ。
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