第九十六話 お盆になりその一
[8]前話 [2]次話
第九十六話 お盆になり
八月半ばに入ってだ、咲は家で母に言った。
「お盆どうするの?」
「どうするのって同じよ」
母の返事はこうだった。
「お祖父ちゃんお祖母ちゃんのお家によ」
「行くのね」
「そうよ」
あっさりとした返事だった。
「そうするからね」
「お父さんの実家にもお母さんの実家にも」
「それぞれ法事もあるしね」
「そこにお顔出して」
「それでね」
そのうえでというのだ。
「お盆はやっていくから」
「そうなのね、何かね」
咲は母の話を聞いて言った。
「お父さんもお母さんも東京生まれで」
「それも都内ね」
「実家もそうだからね」
「都内での移動でね」
「里帰りってね」
それはというのだ。
「うちってね」
「そうした感覚ないっていうのね」
「どうもね」
「便利だからいいでしょ」
母の返事はあっさりしたものだった。
「そうでしょ」
「そうかしら」
「そうよ、別にね」
これといってという返事だった。
「都内での移動で済むなら」
「日帰りだし」
「だったらね」
それならというのだ。
「いいでしょ」
「そんなものね」
「そう、田舎に帰るとかでしょ」
母は娘に言った。
「咲が言う里帰りって」
「そう、東京以外のね」
「うちはないから」
ここでもあっさりと言った。
「絶対にね」
「お父さんもお母さんも東京生まれで」
「それも都内ね」
「行き来もすぐで」
「そういうのないわよ、お祖父ちゃんもお祖母ちゃんもこっちだしね」
母は自分の両親の話もした。
「東京生まれだから」
「お父さんの方もね」
「だからね」
それでというのだ。
「そんなのないわよ」
「うちには」
「そう、全くね」
それこそというのだ。
「他のお家はどうあれね」
「うちはもう東京で済むのね」
「そうよ、それならそれでいいでしょ」
「そうかしら」
「だって近いから」
「近いといいの」
「近いイコール楽よ」
娘に強く言うのだった。
「そしてこうした場合の楽はなのね」
「いいことなのね」
「近いから神宮球場だって行けるでしょ」
一家全員ヤクルトファンだからこう言った、三人共正しい野球愛を持っているのでおぞましいまでに邪悪な巨人は応援していない。巨人こそが邪悪である。
「そうでしょ」
「そう言われるとね」
「あの巨人の本拠地だけれど東京ドームもね」
世界中の悪意の瘴気が集まるというこの場所もというのだ。
[8]前話 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ