第一章
[2]次話
弱い巨人最高
根室寿はこの朝これ以上はないまでに怒っていた、正確に言えば前日の夜からそうなっていたりする。
全身を黒い瘴気で多い目は真っ赤に光っている、父はそんな我が子に言った。
「気持ちはわかるがな」
「落ち着けっていうんだ」
「佐藤選手ホームラン打っただろ」
「打ったよ」
寿はその通りだと答えた。
「遂にね」
「それで巨人今弱いだろ」
「同率最下位だよ」
「だったらな」
「怒ることないっていうんだ」
「巨人に負けたこと自体が嫌か?」
父は息子に問うた。
「お前としては」
「そうだよ」
寿もその通りだと答えた。
「全く、一番負けたら駄目なチームだよ」
「その通りね」
寿の妹の千佳も言ってきた、見れば一家でテーブルに座って朝食を食べている。白いご飯に味噌汁に漬けものそれに卵焼きといったメニューである。
「巨人にはね」
「負けたら駄目か」
「絶対によ」
何があってもというのだ。
「何があってもな」
「二人共そう言うんだな」
父はどうにもという顔になって応えた。
「うちの子達は本当に嫌いだな」
「じゃあお父さんは巨人好きかな」
息子は父に赤く光る目を向けて問うた。
「あんなチームを」
「好きな筈ないだろ」
父も父でそうだった、卵焼きに醤油をかけつつ答える。
「お父さんも関西人でな」
「それならだよね」
「巨人は嫌いだよ、阪神だよ」
好きなチームはというのだ。
「昔からな」
「じゃあわかるよね」
「まあな、しかし二人共本当に嫌いなんだな」
息子に応えつつ思った。
「巨人のことが」
「この世で一番嫌いだよ」
「私もよ」
二人同時に答えた。
「シーズン百敗していいから」
「二軍も交流戦もだよ」
「もう万年最下位でね」
「どうしようもなくなっていいから」
「同感だが二人共嫌い過ぎだな」
父はしみじみとして思った。
「幾ら何でも」
「この子達の巨人嫌いは絶対だから」
母はこう言った、味噌汁を飲みつつそうした。
「もうね」
「変わらないか」
「別に悪いことでもないでしょ」
「そうだな、巨人が嫌いでもな」
幾らそうでもとだ、自分の奥さんの言葉に頷いた。
「テロとかしない限りな」
「そんなことする子達でもないでしょ」
「ああ、じゃあいいな」
「そもそも巨人って悪いことばかりしてるでしょ」
「悪いことしかしていないな」
それが巨人だ、球界を私物化し壟断し暴虐の限りを行い続けてきたまさに球界いや戦後日本の邪悪の象徴であるのだ。
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