第九十五話 恋人のカードその八
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「しかし」
「それでもですね」
「優しさも必要で」
「そうしたことを言わないこともですね」
「必要です、傷付いた人は労わる」
強い声で話したのだった。
「その思いやりを持つことです」
「やっぱりそうですか」
「そうです、人を嘲ると後で返ってきます」
「恨まれて」
「そしてその行為を見て」
そうしてというのだ。
「他の人も思いますね」
「自分もされるのかって」
「その時軽い気持ちで行っても」
「された人は覚えていて」
「そしてです」
「周りも見ているんですね」
「人を嘲り罵る時の人の顔を見たことはありますか」
速水は咲に問うた。
「人をいたぶる時の」
「あります、何か」
咲は思い出して答えた。
「物凄く醜いです」
「左様ですね、その顔をです」
「人は見ていますか」
「その言葉を、そんな醜い人を好きになるか」
速水は自分に問う様にして咲に話した。
「一体」
「そういうことですね」
「そうです、自然とです」
「優しさがなくてですね」
「人に悪意を向け」
そうしてというのだ。
「傷付いた心をいたぶるなら」
「嫌われますか」
「一度そんな人を見ましたが」
速水は自分のことからも話した。
「後でたまたま擦れ違いましたが」
「そうしたらですか」
「手首の見えやすいところに刺青を入れていました」
「手首にですか」
「もうです」
それこそというのだ。
「見えやすいところにその様なものを入れますと」
「普通のお仕事出来ないですね」
「今ではスーパー銭湯でもお断りです」
刺青を入れているとそれだけでだ、ほんの小さなものでも店の者に見付かれがそれで駄目になってしまうのだ。
「まさに」
「そうですよね、もう」
「刺青はそこまでです」
「社会的に駄目出しされるものですね」
「元々です」
そもそもとだ、速水は話した。
「刺青はヤクザ屋さんが入れるものですね」
「もう代名詞みたいに」
「それでイメージが悪いので」
「今は尚更ですね」
「そうなっている中で」
そうした社会的風潮のというのだ。
「よりによって手首なぞです」
「目立つ場所にですね」
「入れるなぞ」
それこそというのだ。
「自分でまともな人間でないと言っている様なものです」
「まともなお仕事にも就けないですしね」
「そうです、夏は尚更です」
「目立ちますね」
「冬でもすぐです」
「手首にあると」
その刺青がとだ、咲は言った。
「すぐに見えますね」
「そんな風ですと」
「本当にまともなお仕事に就けないですね」
「面接の時点で、です」
まさにその時点でというのだ。
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