暁 〜小説投稿サイト〜
魔法絶唱シンフォギア・ウィザード 〜歌と魔法が起こす奇跡〜
AXZ編
第149話:その心は金剛より硬く
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「不安なのか?」
「そんなんじゃねえよ。ただ、分かんねえだけさ。こんなスゲェ力を、どいつもこいつも変な事にしか使えねえのが、さ」

 そう言って颯人は空に指輪をはめた右手を翳した。少し手首を回せば、太陽の光を反射した指輪がキラリと煌めく。

「ホント……何でだろうな……」

 珍しく、どこか寂しそうな声を出す颯人。その言葉は、風に乗って何処へともなく消えていった。




***




 本部に戻った颯人と透は、男性用のシャワールームで手早く汗を流し休憩用のスペースでソフトドリンクを片手に一息ついていた。女性陣はまだシャワールームの中。時折外まで話し声が聞こえてくるので、出てくるまでまだしばらく時間が掛かるだろう。

 この時間を利用し、颯人は透に気になっていた事を訊ねた。

「そう言えば、透? お前大丈夫なのか?」
「?」
「今回の任務、お前にとっても嫌な思い出が沢山あるんだろ?」

 それはクリスの様子から漠然と感じていた不安である。今回の任務がバルベルデで行われると知った時から、クリスは何処か思い詰めた様子で過ごしていた。それは恐らく……と言うか間違いなく、過去の出来事が関係している。

 クリスはバルベルデで両親を失った。それも事故なんかの類ではなく、内戦に巻き込まれるという形でだ。
 そして透もまた、クリスと共に内戦に巻き込まれて捕虜になり、数年の月日を暴力の中で過ごした末に喉を、声を失った。

 どちらにとっても辛い過去。特に透はただ声を失っただけでなく、同時に夢も失ってしまったのである。普通の神経をしていれば、辛いなんてものではない。死に掛けたことも相まって、トラウマになっていてもおかしくはない。
 だのに透は、クリスの心配こそしても彼自身は精神的に参った様子を欠片も見せていない。颯人はそれがどうしても気になったのだ。

「クリスちゃんの事を気遣えるんだ。忘れたって訳じゃないんだろうが……」

 颯人がそう訊ねると、透は少し考えるような顔をした後小さく笑みを浮かべ、メモにペンを走らせ颯人に見せた。
 そこに書かれていた内容に、颯人は思わず目を見開いた。

「お前……マジ?」

 信じられないと言いたげな颯人の問いに対し、透はコクンと頷いた。その様子に颯人は呆れたような、だが同時に感心を含む溜め息を吐いた。

「はぁ……お人好しもここまでくると病気だな。それで良いのか? お前1人が損してんだぞ?」
〔クリスが居てくれるなら、僕にとってはそれで十分です〕

 それが虚勢でも何でもなく、本心からの言葉である事が颯人には手に取るように分かった。分かってしまった。

 透の揺ぎ無い意志を目の当たりにし、颯人は力無く両手を上げた。

「参った、降参だよ
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